本研究の最終目的は、物質中の磁気弾性結合によって発現する磁性力学振動素子中のスピン角運動量と力学運動の共鳴強結合効果を実証・開拓し、スピン-力学相互変換に向けた基礎学理を構築することである。前年度の研究において、磁性体中へのスピン流注入による体積変調効果の実証に成功し、非一様磁場下におけるスピン波共鳴効果の数値計算を行った。本年度はこの研究成果に基づき体系的な実験検証を行った。本年度の研究成果は下記の二点に集約される。 1. スピン流による体積変調効果の原理解明 強磁性体中にスピン流を注入した時の力学応答を様々な試料構造・磁場方向にて系統的に測定した。その結果、スピン流注入方向が逆向きになる試料構造を用いると力学振動変位の符号が反転し、さらに特定の磁場方向にて力学振動振幅が増強される事が明らかになった。本結果を理論解析することにより、観測されたスピン流力学応答が磁性体中のスピン揺らぎの変化に起因していることを実証した。本成果は国際科学雑誌Nature Communicationsにて発表済みである。 2. 磁場勾配下でのスピン波非局所共鳴効果の実験的開拓 様々な磁場勾配条件においてスピン波の非局所共鳴効果を測定した。その結果、磁場の空間分布に応じてスピン波が非局所共鳴を起こす位置が系統的に変化する事を突き止めた。磁場勾配下でのスピン波分散関係を加味した理論検証によって、スピン波の空間分布を外部磁場によって自在に制御可能である事を見出した。
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