最終年度の研究では、対象物質であるビスマスカルコゲナイド系層状超伝導体において観測されていた低温における電気抵抗の上昇に着目し、ノーマル状態の磁気抵抗の測定を中心に行った。先行研究において、このような低温における電気抵抗の上昇は弱局在であることが提案されていた。実際に弱局在であれば負の磁気抵抗が観測されるはずだが、先行研究において磁気抵抗測定の報告はされていなかった。対象物質の組成は、LaO1-xFxBiS2-ySeyであり、本試料ではフッ素置換によりキャリアードープ量をコントロールすることができ、またセレン置換によって超伝導特性を変化させることができる。実験結果として、全試料において負の磁気抵抗は観測されなかった。しかし、セレン置換量が多い試料において、低磁場領域でカスプ的な正の磁気抵抗となる弱反局在のような振る舞いが観測された。このカスプ的な磁気抵抗は、セレン置換量の減少に伴って抑制されブロードになった。また、フッ素置換量が少なくセレン置換していないLaO0.8F0.2BiS2では、低磁場の磁気抵抗が磁場に対してほとんど依存せず、弱局在と弱反局在のクロスオーバーであるような振る舞いとなった。さらに、フッ素置換とセレン置換による電気抵抗とホール係数の温度依存性の変化と磁気抵抗の変化が相関していることも見出した。本件研究成果は、日本物理学会の英文の学術雑誌であるJournal of the Physical Society of Japanに掲載された。弱反局在は、スピン軌道結合が強い物質において観測されているが、一方で結晶構造の空間反転対称性が欠如している物質においても観測されている。対象物質では、結晶構造の空間反転対称性は破れていないが、ビスマスやカルコゲンのサイトに着目すると局所的に空間反転対称性が欠如しているため、この性質が弱反局在と関係していることも考え得る。
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