研究課題/領域番号 |
20J21642
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
福田 茉佑 金沢大学, 新学術創成研究科(ナノ生命科学研究所), 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ポリアセチレン / らせん / らせん誘起 / らせん記憶 / らせん反転 / 不斉増幅 |
研究実績の概要 |
今年度は、側鎖に動的軸性キラルなビフェニル構造を有するポリ(ビフェニルイルアセチレン)誘導体(PBPA)に触媒量のキラルゲストを添加した際に誘起されるラセンの巻き方向が、時間経過によって切り替わる「時間依存ラセン反転挙動」の機構解明を目的に、ラセン誘起条件が本現象に与える影響を詳細に調査した。 側鎖に長鎖エステル基を有するPBPA-Aに対して、アラニンのテトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸塩(BArF塩)(G1)を0.05当量添加することで、時間反転を伴いながら一方向巻きラセン構造が誘起されることを予備的に見出していた。そこで、G1の添加量がラセン反転に及ぼす影響を調査したところ、ラセン反転前後の誘起円二色性の極大値は、それぞれ非線形的に増加し、0.08当量の時に飽和値に達することが明らかになった。さらに、ラセン反転前後の極大値付近においてゲストを除去したPBPA-Aは、それぞれ誘起されたラセン構造を記憶として保持していることが確認された。したがって、添加した単一のキラル源を適切な時間で除去するのみで、互いに逆巻きのらせん構造を有するPBPA-Aのエナンチオマーを得ることに成功した。NMRおよびSEC測定の結果から、経時的なポリマーの分解や立体規則性の変化がラセン反転を引き起こしている可能性は低いことが示された。また、キラルゲストの影響を調査するために、複数のBArF塩を用いたところ、キラルゲストの水素結合供与性部位の存在が本現象の発現に重要な役割を果たしていることを突き止めた。 さらに、側鎖ビフェニル基上の置換基の影響を調べるために、置換基が異なるPBPAを用いたところ、同様のラセン反転現象は観察されなかった。これらの結果から、側鎖末端の置換基が「時間依存ラセン反転挙動」の発現に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時には、令和2年度の研究計画として「時間ラセン反転現象の解明」といった課題を挙げていた。研究実績の概要に記載の通り、本現象のメカニズムを断定するまでには至っていないが、予備的知見をもとに、キラルゲストの添加当量などの誘起条件を詳細に調査することによって、本現象が最も効果的に起こる最適条件を確立することができた。また、計画に予定した通り、キラルゲストの種類やポリマー側鎖末端の置換基の効果などを調査することによって、本現象の機構解明に寄与すると考えられる重要な結果が多数得られている。本年度得られた実験結果から、キラルゲストのポリマーへの配位形態が、速度論的に有利な形態から熱力学的に有利な形態へと経時的に変化している可能性が高いと考えており、推察されるメカニズムを裏付けるために必要な検討を進めている段階である。「時間ラセン反転現象」を合理的に説明可能な実験結果が揃い次第、海外学術誌への投稿を予定している。以上のように、「時間ラセン反転現象」の機構の解明に向けた研究は順調に進んでおり、本現象を利用したマテリアル応用への展望なども得られていることから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度行った、「時間依存ラセン反転現象」の解明に関わる多数の重要な結果を受けて推察されるメカニズムを裏付けるために、モノマーをモデル分子としたNMR測定による分子認識機構の解明やその配位形態の経時変化の観察を中心に進め、そのような分光学的測定と計算科学的手法を駆使することで本現象のメカニズムを明確に示す。さらに、当初の計画通りに、HPLC用のキラル固定相を作製し種々の測定条件を最適化することで、キラルゲストを除去する時間を調製するのみでラセミ体の溶出順序の自由な切り替えができる、全く新しいマテリアル開発を行う。また、側鎖末端の置換基が異なるポリ(ビフェニルイルアセチレン)誘導体について、極めて低い光学純度(0.1%ee以下)のキラルゲストであっても、条件を最適化することによって、そのキラリティを識別することが可能になるという非常に興味深い現象が予備的に見出されたことから、それについても詳細な検討を進めていく。
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