近年,自発脳波はヒトが外界から情報を取得するリズムに関わることが示唆されている.経頭蓋交流電流刺激(tACS)を用いて自発脳波を操作することにより,自発脳波を用いた人の情報処理を解明する研究が開始され,著しい発展を遂げている.しかし,tACSなどの電流刺激を用いた研究は多数ある一方で,電流刺激が脳へ与える機序は不明な点が多く,故に機序に基づく電流刺激の設計に至っていない.その主要因は頭部の電流刺激中の脳波計測が困難な点と電流刺激作用経路が不明な点にあり,これらを明らかにすることが重要な課題である. 初年度に頭部電流経路の特定と設計を重点的に研究実施した結果,頭部電流経路の特定が当初計画時の想定より重要であることが明らかになったことから,令和3年度から電流経路の設計手法並びに電流経路の特定へと研究計画の中心を移した.その結果,一次近似としての頭部電流経路は頭蓋骨形状によって決定されるものとして捉えられ,それに基づいた頭部電流経路上での電流刺激設計が有用であることがわかってきた.当該年度である令和4年度は,令和3年度に考案した各頭部電流経路上での電流経路設計手法の精密化を行った.この成果として,2本の論文が学術論文誌に採録された.また,令和3年度に提出した特許についての追加主張を加え,PCT特許として申請を行った.また,電気回路的記述を用いた頭部電流経路のモデル化に取り組み,3次元化の妥当性の検討を積み重ねた.さらに,電流刺激下での生体信号を計測する手法として,令和3年度に提案した時間方向にある設計余裕を用いた時空間経路設計手法を応用し,時間方向にある設計余裕を用いた脳活動計測法について実験を実施した. しかし,電気回路的記述を用いた頭部電流経路のモデル化と時間方向にある設計余裕を用いた脳活動計測法には未検討事項も多く,適用可能範囲や応用範囲などの結論を出すに至っていない.
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