研究課題/領域番号 |
20J21726
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平井 遥 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 配位子保護金クラスター / 超原子複合体 / 異種金属ドープ |
研究実績の概要 |
本年度は、超原子複合体の構成単位となり得る合金超原子の合成と評価に取り組んだ。 まず、超原子複合体の構成単位として、ジホスフィン配位子と塩素配位子で保護されたAu13超原子を選択した。構成単位となる超原子の候補を増やすため、Au13超原子をベースに合金超原子の合成に取り組んだ。異種金属M(Pt, Ir)を1原子ドープすることで、同様の幾何構造を有する新奇の合金超原子PtAu12とIrAu12を合成することに成功した。それぞれの超原子の組成はエレクトロスプレーイオン化質量分析法によって同定した。また、単結晶X線回折解析とNMR分析により、MAu12超原子は正二十面体Au13核の中心を異種金属で置換したM@Au12核を持つことがわかった。電気化学測定を用いて、MAu12超原子のHOMOの準位を比較したところ、Au13 < PtAu12 < IrAu12の順にエネルギー準位が上昇していることがわかった。M@Au12核中心の形式電荷がそれぞれAu(+)、Pt(0)、Ir(-)のように減少するに伴って超原子核のポテンシャルの底が持ち上がった結果、軌道エネルギーが段階的に増加したのだと考察した。 また、超原子複合体の構成要素を探索する過程で、MAu12超原子の発光特性がドーパントによって劇的に変調することを思いがけず発見した。Au13超原子の発光量子収率は11%と金超原子として比較的高いことが知られているが、PtまたはIrをドープすることで60%以上まで発光量子収率が増加することを見出した。加えて、IrAu12の強い発光は、酸素雰囲気下でほぼ完全に消光され、代わりに一重項酸素の生成が観測された。一般的に金超原子では酸素による劇的な消光は見られないため、興味深い現象として更なる調査を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
超原子複合体の構成単位となり得る配位子保護金クラスターを探索する過程で、正二十面体構造のAu13超原子に対して異種元素を1原子だけ精密にドープした合金超原子の合成を達成した。これらの超原子の物性を比較することで、ドーパントによって電子軌道の準位や光学特性を精密に制御するための設計指針を明らかにした。また、ドープにより発光量子収率が劇的に増大するなどの予期せぬ現象を見出すことができた。これらの成果は、今後超原子が複合化・集積化した際に、物性や機能においてどのような相乗効果が発現するかを解明する上での基盤となる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、上記の合金超原子の光物性に関してより詳細に調査する。温度可変の分光法や理論計算を通じてドープに変調する発光特性の起源を明らかにする。 また、ジアルキニル配位子による超原子の複合を目指す。配位子交換によって超原子にジアルキニル配位子を導入し、さらに別の超原子を作用させることで超原子同士の連結を目指す。さらに、別の方針として、ヒドリドを吸着した合金超原子が金(銀、銅)錯体を取り込みつつ成長することを利用して、ジアルキニル金(銀、銅)錯体を反応させて超原子複合体を合成することも考えている。
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