研究実績の概要 |
前年度は、ジホスフィン配位子と塩素配位子で保護されたAu13超原子にIrまたはPtを1原子ドープしたIrAu12、PtAu12超原子の合成に成功した。これらのMAu12超原子(M = Ir, Pt)はAu13 超原子に比べて高い発光量子収率を示した。 本年度は、ドープする金属を第4周期元素まで拡張し、RhまたはPdを1原子ドープしたRhAu12とPdAu12を合成した。それぞれの組成は、エレクトロスプレーイオン化質量分析法によって同定した。単結晶X線回折解析とNMR分析により、RhAu12とPdAu12はMAu12超原子(M = Ir, Pt)と同じく正二十面体Au13核の中心を異種金属で置換したM@Au12核を持つことがわかった。上記の5種のMAu12超原子(M = Rh, Ir, Pd, Pt, Au)の発光特性を比較することで周期表の族または周期に沿ったドープ効果を系統的に調べた。MAu12超原子のHOMO-LUMOギャップの大きさを比較すると、周期表においてドーパントの元素が左下に位置するほどHOMO-LUMOギャップが拡大することがわかった。アルゴン雰囲気下での発光量子収率および発光寿命を比較すると、HOMO-LUMOギャップと同一の傾向が得られた。これらの結果から、HOMO-LUMOギャップ拡大による輻射緩和過程の促進と無輻射緩和過程の抑制が、MAu12超原子の発光特性の支配的な要因であると結論づけた。また、酸素雰囲気下での消光を調べ、励起状態の項間交差の効率がドーパントによって異なることを見出した。特に第9族元素をドープした超原子の発光は、ほぼ完全に消光されたことから高効率の項間交差が起きていると考えている。 上記の研究は、超原子の発光特性へのドープ効果に系統的な理解をもたらすだけでなく、超原子を構成単位とする超原子複合体の発光機能を設計する上での指針を提供する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
Au13超原子にドープする金属元素の適応範囲を前年度から拡張することに成功し、異種金属M(Rh, Ir, Pd, Pt)をドープしたM@Au12超原子を原子精度で系統的に合成した。これらの超原子の発光特性を比較することで、発光量子収率が基底状態と励起状態のエネルギー差に依存して飛躍的に上昇することを明らかにした。さらに、溶存酸素に対する消光の応答が異種金属Mによって劇的に変調することを見出した。これらの知見は、今後、超原子の発光機能や光触媒性能の開拓を進める上で、基礎的な設計指針をもたらすと考えている。
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