研究課題/領域番号 |
20J21732
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
西奈美 卓 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | プリオン / 膜のないオルガネラ / 液-液相分離 / アミロイド / ゲル / 添加剤 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、プリオンの相分離現象を制御するための手法を提案することである。プリオンは感染能を示すタンパク質であり、遺伝子代謝や神経変性疾患に深く関わる。最近の研究によると、生体分子が集合してできた可逆な相分離は、膜のないオルガネラとして一連の酵素反応の制御や特定の生体分子の保護、様々な疾患に関わることが明らかになりつつあり、プリオンにおいてもその役割が注目されている。そのため、相分離をターゲットにしたプリオンの制御は、生命現象の解明や産業応用において重要な知見になると考える。しかし、プリオンにおける相分離現象の役割は明らかでない。 本年度の研究では、プリオンのアミロイド化における液滴の役割を明らかにすることを目的とした。プリオンには、細胞内でストレスを受けて液-液相分離することが知られている酵母の翻訳終結因子Sup35を使用し、アミロイド化の中間状態として液滴が存在するという仮説のもと、試験管内でSup35の液滴とアミロイドの関係性を調べた。細胞内の夾雑環境の模倣には、高分子クラウダー、球状タンパク質、ポリアミノ酸、核酸などの性質の異なる分子を用いた。Sup35の液滴の形成機構を調べたところ、夾雑物の種類によって液滴が形成する条件や液滴の性質が異なることが分かった。このとき、液滴の形成速度はアミロイドよりも著しく速かった。液滴によるSup35の局所的な濃縮はアミロイド化を促進する傾向があった。一方、興味深いことに、夾雑物の種類によっては、液滴からアミロイド化が阻害されることがあった。液滴を介したアミロイドは、ナノスケールの小さなものからマイクロスケールの紐状、針状、ゲル状のものまで、大きさや形状、安定性は多様であった。以上の結果は、様々な分子が集合した液滴やその小さな前駆体がプリオンのアミロイド化の中間状態として存在し、アミロイド化に影響を与えていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プリオンの相分離現象を制御する手法を提案するという目標に向け、現在までに、(i)プリオンのアミロイド化における液滴の役割を調査し、(ii)添加剤を用いたアミロイド前駆体液滴の制御に取り組んだ。タンパク質や核酸といった生体分子の相分離現象が様々な生命現象に関わることから、上記の研究の他にも、タンパク質の新たな相分離状態を探索する研究を進め、高濃度のタンパク質が形成するサブマイクロメートルのネットワーク状の液-液相分離や、タンパク質が数個集まった非常に小さな凝集体について知見を深めた。相分離状態を制御するための添加剤を探索する研究では、新たな骨格を持つ効果的な添加剤を発見した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、プリオンのアミロイド化における液滴の役割を調べた。生体内におけるプリオンの感染能は、プリオンが形成する固有の構造により引き起こされることが報告されており、様々な疾患や生理機能に影響を与えている。そのため、プリオンのアミロイド化した粒子が既知の膜のないオルガネラに影響を与えている可能性があると考える。そこで今後は、酵母プリオンSup35のアミロイド化した構造が他の相分離現象に与える影響を調査する予定である。具体的には、様々な性質を持つモデルポリマーを用いて形成した液滴に対して、アミロイド化した小さなプリオン粒子が与える影響を調べる。これに加えて、これらのプリオンの相分現象に対する添加剤の効果についても調査する予定である。
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