タンパク質の液-液相分離やアミロイドの形成は、生物学的な機能や疾患に関わるとされている。一方、そのメカニズムや制御法は確立されていない。本研究では、タンパク質の液滴やアミロイドおよび凝集の溶液状態の理解を深めるため、タンパク質の構造の安定化剤や凝集抑制剤としてこれまで開発されてきた添加剤が、液滴の安定性やアミロイドへの成熟に与える効果について、酵母プリオンタンパク質Sup35のN末端側の天然変性領域を対象に調べた。変性剤や塩、オスモライト、糖、ポリオール、アミノ酸、アミン化合物、ヘキサンジオール、高分子などの特徴の異なる添加剤を系統的に調べ、液滴やアミロイドの形成に影響するメカニズムを調査した。タンパク質の凝集抑制剤として知られる変性剤やカオトロープは、液滴に対しても抑制する効果を示すことが分かった。タンパク質の凝集を促進する糖やポリオールは、反対に液滴を抑制することが分かった。また、オスモライトの中には凝集と液滴を促進するものがあることが分かった。高分子電解質は、添加濃度に伴い液滴の形成を抑制・促進する効果が観察され、官能基の性質によって液滴からアミロイドの成熟を促進する効果と抑制する効果があることが分かった。一連の結果は、水溶液中でのタンパク質の集合体に関わる相互作用と、凝集と液滴の安定化機構の違いを示唆する結果であり、タンパク質以外の成分がタンパク質の溶液状態に与える影響について洞察を与えた。
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