研究課題/領域番号 |
20J21734
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
浦 朋人 筑波大学, 理工情報生命学術院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 液-液相分離 / 酵素活性化 / 酵素連続反応 |
研究実績の概要 |
近年、細胞内反応の制御機構として、液-液相分離現象が注目されている。本研究では、液-液相分離現象によって、極めて効率的に進む細胞内酵素反応を試験管内で模倣することを目的とする。特に、本年度は液-液相分離によって形成した「液滴」が酵素活性に与える影響を試験管内で調査した。具体的には、1)液滴の形成と消失を介した酵素連続反応の構築、および、2) 液滴内での酵素活性化現象の発見と分子機構の解明に取り組んだ。以下に詳細を記す。 1)液滴の形成と消失を介した酵素連続反応の構築 液滴の形成において不可欠だと考えられている天然変性蛋白質を模倣したポリペプチドが酵素連続反応に与える影響を調査した。モデルポリペプチドの存在下では、ヘキソキナーゼとグルコース6リン酸デヒドロゲナーゼの連続反応によって、液滴の形成と消失が連続的に制御されることが分かった。このときの反応効率は、液滴を形成しない場合よりも約2倍程度増加した。以上の結果は、動的な液滴の形成と消失を介することで、酵素反応の効率が上がることを試験管内で示した初の例となる。 2)液滴内での酵素活性化現象の発見と分子機構の解明 乳酸オキシダーゼ(LOX)が液滴内で活性化する現象を発見した。ポリカチオン存在下では、直径数百nmから数十μmのLOX液滴が形成した。さらに、速度論的パラメータの導出により、液滴中のLOXは基質への親和性が増加するとともに、触媒回転数が増加することが分かった。また、遠紫外CDスペクトルの測定によって、LOXの二次構造が液滴内で変化することが示唆された。液滴内部における混み合い効果や非極性の特殊な溶液環境が、LOXの活性部位の構造変化を引き起こした可能性がある。以上の結果は、液滴は分子を濃縮することに加えて、内部で酵素の構造変化を誘起するという酵素反応における液滴の新しい役割を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画通り、2種類の酵素連続反応における液滴の影響の調査を推し進めた。さらに、予定していなかった、LOXの液滴内活性化現象を発見した。これらの反応機構が異なる3種類の酵素を用いた研究により、液滴内で酵素活性が大幅に変化することを発見した。以上の理由より、当初の計画以上に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
1)液滴内酵素活性化現象の分子機構の解明。溶液NMR等の構造生物学手法を用いて、液滴内での酵素の詳細な構造変化を検出する。また、分光学的手法により、基質や生成物の液滴内への分配を検出する。 2)酵素反応における液滴の効果の一般性の調査。液滴が様々な酵素に与える影響を明らかにする。酵素の反応機構や構造的特徴によって、液滴による酵素活性化あるいは不活性化の一般性がみられるか調査する。 3)酵素連続反応における液滴の効果の評価。様々な複数の酵素が協同して進む連続反応において、液滴の効果を調査する。
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