本年度は、昨年度に引き続き、L-乳酸酸化酵素が液滴内で約1桁活性化する現象について詳細な調査を進めた。動的光散乱法および顕微鏡観察を組み合わせた調査により、塩濃度に応じて液滴のサイズが数十ナノメートルから数マイクロメートルまで変化することを発見した。この液滴のサイズの塩濃度依存性を利用して塩濃度を変化させながら酵素活性測定を行ったところ、液滴のサイズが小さいほど酵素活性化効果が高いことを明らかにした。以上の結果と、昨年度までに得られていた1) 液滴内での酵素の反応速度論パラメータの変化と2) 酵素の高次構造の変化の結果をまとめた論文が発表および口頭発表を行った。 液滴は細胞内を区画化する集合体であり、様々な反応との関連が明らかにされている。これらの研究では、試験管内で目的のタンパク質を含む液滴を形成させ分析して得られた知見から細胞内の液滴の形成機構や機能に言及している。観察を容易にするために数十マイクロメートル程度の液滴を試験管内で作製する例も多いが、本来細胞内を区画化する液滴の挙動を理解するために、細胞と同程度かそれ以上の大きさの液滴を分析することに対して疑問もあがっている。本年度の成果は、液滴のサイズが酵素の活性を変化させることを示した点で意義がある。また液滴形成の前駆体として数百ナノメートルサイズの集合体の存在が他の研究でも報告されはじめており、今後はこのサイズの集合体の検出やダイナミクスの調査が細胞内の液滴の役割の理解において重要になるだろう。
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