研究課題/領域番号 |
20J21760
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
坂本 貴洋 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 集団遺伝学 / 性選択 / 性染色体 / 確率過程 |
研究実績の概要 |
種分化の際にDNA配列がどのように進化するのかについて、理論的なアプローチによって研究を行っている。2020年度は、以下の2つのプロセスに注目し、数理モデルを解析することで、新たな進化理論を構築した: (i) 自然選択と性選択を同時に受ける形質 (マジックトレイト)の定着過程、(ii) 性拮抗選択によって駆動される性決定遺伝子座の遷移。 (i) 自然選択と性選択を同時に受ける形質 (マジックトレイト)の定着過程 性選択と自然選択を同時に受けるマジックトレイトは、種分化の際に重要な役割を果たすと考えられている。しかし、そのような形質がどのように集団に定着するのかは、よく分かっていなかった。本研究では、確率的なモデルを構築し、マジックトレイトの定着過程を理論的に記述した。新たなマジックトレイトの定着確率を求めた。性選択と自然選択の相対的な強さが、定着過程の主要な決定要因であった。局所環境への適応を促進し、正の自然選択を受ける場合でも、より強い性選択を受ける場合には、定着は難しかった。しかし、集団サイズが小さい場合には、遺伝的浮動の効果により、定着が起こりえた。また、定着が起こる場合の遺伝子頻度の変化も記述した。 (ii) 性拮抗選択によって駆動される性決定遺伝子座の遷移 近年のゲノム解析により、両生類や魚類などの一部の分類群で、性決定遺伝子座が頻繁に遷移していることが明らかになった。このような進化は、種間の生殖隔離を促進し、種分化につながる可能性がある。しかし、これらの遷移がどのように起こるかは、十分に明らかになっていなかった。本研究では、性拮抗選択により駆動される性決定遺伝子座の遷移に着目し、これがどのように起こるのかを理論的に記述した。性拮抗選択の働き方によって、遷移の起こりやすさは大きく異なった。また、性拮抗選択の働き方は、遷移後にゲノム上に残される痕跡にも大きく影響した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画していた通り、自然選択と性選択の両方を組み込んだ種分化モデルを構築・解析し、両者の相互作用について明らかにできた。また、その成果を論文として発表できた。 それに加え、種分化の際にも重要な役割を果たすと考えられる性染色体の進化に着目し、新たな性決定遺伝子の進化についての理論を構築し、その成果を論文として発表した。これは、当初の計画で想定していなかった成果である。 以上の点から、研究が当初の計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
種分化に関わる進化プロセスについて、引き続き理論の構築を行う。特に、興味深い結果が得られた性染色体の進化プロセスに注目する。2020年度は性染色体の初期の進化に注目した理論を構築したが、2021年度はより進化が進んだ段階における性染色体の進化動態について、理論モデルを構築・解析することで明らかにする。 また当初の計画通り、種分化の過程を明らかにするためのデータ解析についても準備を進める。すでに構築した理論をもとに、データ解析に必要な統計手法の開発を目指す。また、解析に使えそうなデータを、先行研究からピックアップする。
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