研究課題/領域番号 |
20J21802
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
上浦 六十 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 生命の起源 / 生物物理 / シミュレーション / 多様性 / フェーズ遷移 / 進化 |
研究実績の概要 |
本研究では,宿主と寄生体の集団サイズ振動に見られるフェーズ遷移のメカニズムを解明することを目的とする.令和2年度では先ず,相互作用する宿主と寄生体の継代実験を模したシミュレーションの構築を行なった.このシミュレーションでは,細かく区画化された反応系に分布した任意の種類の宿主と寄生体が,区画間の融合分裂,希釈,複製反応経て継代される用に設計された.次にこのシミュレーションを用いて,宿主と寄生体の競争系で宿主が多様化することで集団サイズの振動が激しい状態から緩やかな状態へ遷移することが示された.この多様化(複雑化)は,進化実験で実際に見られている現象であり,必然的な想定である.この時,多様化した2種類の宿主は,一方のみが寄生体への耐性を獲得し,また寄生体耐性を持たない宿主の複製が相対的に強い場合に,寄生体を含んで安定的に存続できることが分かった. 次に,宿主が多様化した条件で振動が緩やかになるのかを,実際に分子を用いて検証をした.FurubayashiらのRNAを用いた長期進化実験では,その濃度振動が激しい領域と緩やかな領域とを遷移する様子を確認できた.そこで,この緩やかな領域に存在したRNAの配列を用いて主座標解析を行うと,頻度が最も高い2種類の配列が異なる系列である様に見えた.これが,多様化した2種類の宿主であると考え,同時存続していた寄生体との相互作用を見たところ,一方の宿主のみが寄生体耐性を持ち,もう一方の宿主がより複製されやすいことが分かった.この結果は,シミュレーションが示した多様化の条件によく合っており.緩やかなRNA濃度振動が宿主の多様化によって見られる現象であることを期待させる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
FurubayashiらのRNAを用いた進化実験系でも明らかに示されたが,この様な単純な系は実験室進化を続けていくと,異なる機能を持ったRNAが生じ,同時に存続する様になるなど複雑性を獲得する様になる.この本研究は先ず,この必然的な現象が集団サイズの振動に影響を与えている可能性を検証することから始められた.これを検証するため,相互作用を行う宿主と寄生体が任意の種類だけ存在し,これが撹拌と希釈,複製を経て継代される様子を模したシミュレーションを構築した.この設計には,RNAを用いた進化実験を参考にした.相互作用を網羅的に用意した継代シミュレーションの結果として,宿主と寄生体の競争系に初めて起こる多様化が寄生体耐性を持った宿主が生じることであることが分かった.そして,多様化した2種類の宿主と1種類の寄生体が存続するには,寄生体耐性を持たない宿主が複製されやすいことも重要であると分かった.さらに多様化の恩恵として,環境収容力や希釈倍率などの環境要因の変動に対して,安定性を獲得できることが分かった. 登校自粛に伴い主に分子系を用いたin vitro実験の進捗は,当初の予定を完全に満足するものとは言えない.特に,分子系の中期間継代実験は,まだ準備段階である.しかしながら本年度に行う予定であった実験は,構築したシミュレーションへのフィードバックを目的としたものである.現状の解析結果は,多様性を得た系が集団サイズの振動を緩やかにすることを支持するものであり,十分にシミュレーションへのフィードバックを可能とするものであると考えている.即ち,シミュレーションの設計は多様性を重視したものにすればいい.
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今後の研究の推進方策 |
RNAを用いた実験により,その集団サイズ振動が宿主の多様化によって緩やかな状態になると期待できる結果を得た.しかしながら,実験的にその証拠を明確に得たわけではない.そこで,シミュレーションで明らかにされた多様化条件を満たす宿主RNAと寄生体RNAの組み合わせ,および満たさない条件での組み合わせで中期間の継代実験を行い,その集団サイズ振動を比較することで,多様化が与える影響をより明らかなものにしようと考えている.また,この結果,およびこれまでの結果からシミュレーションにフィードバックを行うことで,より高次な多様性が持つ影響力がどの様なものかを検証する一般的なフレームワークを構築することを目指す. 現段階で,多様化によって集団サイズ振動の状態遷移が起こることはシミュレーションによって示された.しかしながら,この多様性が進化的にどこまで安定的であるかは分からない.もしも多様性が新たな寄生体の侵入を簡単に許すものであったならば,系の状態を安定的に遷移・維持させる困難である.そこで,多様性がどこまで安定的であるのか,どう有利であるのか(そして不利であるのか)をシミュレーションによって検証することを予定している.
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