研究課題/領域番号 |
20J21809
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
齋藤 健太郎 山形大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 原子層堆積法 / 金属窒化膜 / 真空表面観察 |
研究実績の概要 |
本研究では、窒化アルミニウムや窒化ケイ素を対象として、低温窒化物原子層堆積法(ALD)の研究を行う。低温窒化物原子層堆積の実現のために、窒化ALDに用いる窒化ガスの反応性の評価をプラズマ発光分光分析によって行い、ALDの表面反応観察の結果から窒化ALDの反応機構の解明、窒化ALDのプロセス設計を行う。そのために、原料ガスの吸着と原料ガスの窒化の素過程を多重内部反射赤外吸収分光によるin-situ観察で明らかにする。本研究では、ALDの反応機能の理解を通して、薄膜中への酸素原子の混入原因を明らかにし、低酸素濃度の金属窒化膜を低温で形成できる原子層堆積法を完成させる。応用として、高移動度の窒化物半導体を用いたフレキシブル薄膜トランジスタやヘテロ接合デバイスの界面のパッシベーション層としての実用可能性を明らかにする。 本年度の成果として、トリメチルアルミニウムを用いた窒化アルミニウムALDの表面観察を行い、その反応機構の仮説を提案できた。加えて、160 ℃の基板温度でAl/N比1.1の窒化アルミニウムの形成に成功した。現在の低温窒化物ALDの課題は、X線光電子分光法での薄膜表面の組成分析において、酸素原子濃度が12%と大きいことである。酸素原子の混入経路として、大気暴露後の自然酸化による酸化物の形成や、窒化アルミニウム形成中の酸素原子の混入、Si基板表面に形成された自然酸化シリコンから熱拡散による混入が考えられる。2次イオン質量分析から、薄膜内部の酸素原子濃度は薄膜表面や基板界面の10分の1であることが分かった。そのため、酸素原子の混入経路は、大気暴露後の自然酸化による酸化物の形成や、Si基板表面に形成された自然酸化シリコンから熱拡散によるものが大部分を占めると推測される。今後、薄膜中への酸素原子の混入原因を明らかにし、成膜温度の低温化を目指す予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、原子層堆積法を用いて金属窒化物の低温堆積技術の獲得とその応用展開を進めるものである。令和3年度では、トリメチルアルミニウムを用いた窒化アルミニウムの原子層堆積の表面観察を行い、その反応機構の仮説を提案できた。加えて、160 ℃の基板温度でAl/N比1.1の窒化アルミニウムの形成に成功した。これらの成果を、電子情報通信学会英字論文に投稿した。現在の低温窒化物原子層堆積の課題は、窒化アルミニウム膜に含まれる酸素原子濃度が12%と大きいことである。酸素原子の混入経路として、大気暴露後の自然酸化による酸化物の形成や、窒化アルミニウム形成中の酸素原子の混入、Si基板表面に形成された自然酸化シリコンから熱拡散による混入が考えられる。酸素原子混入経路を明らかにするために、薄膜中の酸素原子濃度を2次イオン質量分析によって測定した。表面から10 nmまでの領域、薄膜内部、Si基板界面の酸素原子濃度は、それぞれ~1022 cm-3、~1021 cm-3、~1022 cm-3であった。SIMSの結果から、薄膜内部の酸素原子濃度は薄膜表面や基板界面の10分の1であることが分かった。そのため、酸素原子の混入経路は、大気暴露後の自然酸化による酸化物の形成や、Si基板表面に形成された自然酸化シリコンから熱拡散によるものが大部分を占めると推測する。この成果を第69回応用物理学会春季学術講演会にて発表した。加えて、水蒸気透過試験(40 ℃、90%RH)によって、窒化アルミニウムのガスバリア性能を評価し、定常状態の水蒸気透過度1.3×10-3 g/m2/dayを得た。 これらの成果から、160 ℃での窒化アルミニウムの成膜に成功し、低温窒化物ALDの応用例を示すこともできたと考えるため、計画通りに進行しており、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの低温窒化物原子層堆積法の表面反応の観察結果から、その反応機構の仮説を提案できた。加えて、160 ℃の基板温度でAl/N比1.1の窒化アルミニウムの形成に成功した。現在の低温窒化物ALDの課題は、X線光電子分光法での薄膜表面の組成分析において、酸素原子濃度が12%と大きいことである。酸素原子の混入経路として、大気暴露後の自然酸化による酸化物の形成や、窒化アルミニウム形成中の酸素原子の混入、Si基板表面に形成された自然酸化シリコンから熱拡散による混入が考えられる。 次年度では、大気暴露の影響を防ぐためにin-situ XPS測定を実施し、基板界面の自然酸化シリコンから熱拡散を防ぐためにin-situでの熱クリーニングによって自然酸化シリコンを除去した後の成膜を試みる。これらを行うことで、成膜環境下以外での酸素混入を防ぐことができ、成膜した窒化アルミニウムの化学組成をより詳細に測定できるようになると考える。そして、表面のアルミニウム原子や窒素原子の化学結合状態を詳細に評価できることで、窒化アルミニウムの原子層堆積の反応機構をより詳しく提案できるようになると考える。これらの方法は他の窒化物原子層堆積法に対しても応用できると考える。
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