単層カーボンナノチューブ (SWCNT) に、化学修飾を用いて欠陥ドープした局所化学修飾SWCNT (lf-SWCNT) は、近赤外域に高輝度な欠陥発光を示す。前年度は、lf-SWCNTのドープサイトに対して、マクロなサイズを有するタンパク質を対象とし、その吸着が導く誘電環境変化に基づく発光波長シフトを用いた新たなタンパク質の検出機構を構築した。本知見は、従来の未修飾SWCNTで用いられてきた検出原理と異なる機構に基づいたlf-SWCNTの近赤外センシングプローブ利用の可能性を示した。一方で、実用化のための課題として、限定的な知見に留まっている欠陥発光の環境応答の詳細な理解と生体試料から医学的に有用な機能性タンパク質を検出する技術への展開が挙げられる。 令和四年度はlf-SWCNTの周囲環境を構成する被覆分子とドープサイトの相互作用を系統的に検証するため、lf-SWCNTを被覆するビニルポリマーの化学構造の違いと欠陥発光波長変化の相関性を評価した。その結果、ドープサイトでは化学修飾に基づく電子状態の偏りによってポリマーとの間に強い相互作用が働き、被覆するビニルポリマーの側鎖構造の物性の違いに応じて欠陥発光が明瞭な波長変化を示すことを明らかにした。 lf-SWCNTを用いた機能性タンパク質の検出系開拓を目指し、腎疾患等のバイオマーカーである血清アルブミンと特異的に結合する長鎖脂肪酸をlf-SWCNTに導入する設計を行った。その結果、本材料は生理食塩水ならびに血清中の血清アルブミンの存在に応答して発光波長シフトを示し、lf-SWCNTが生体環境中の機能性タンパク質検出プローブとなる知見を得た。 以上のように、lf-SWCNTが示す欠陥発光の環境応答の特異性を見出し、機能性タンパク質検出に向けた技術開発を行った。以上の成果はナノ物性を基にした次世代医療診断技術等に貢献すると期待される。
|