研究課題/領域番号 |
20J21827
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新田 魁洲 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 大気圧非平衡プラズマ / ミクロ液相 / インクジェット / 微粒子合成 / プラズマ分光 |
研究実績の概要 |
本研究では、±数%以下の誤差で径の揃った液滴を生成可能なインクジェット装置を用いて、大気圧非平衡プラズマ中に微小液滴(直径20-30 μm)を導入することにより、プラズマ―液滴の相互作用を用いた新規材料プロセスの開発、およびプロセス診断を通じたプラズマ―液滴相互作用の理解を目的とした。本年度の研究計画は、(A)雰囲気ガス制御型プラズマ援用インクジェット装置による各種微粒子合成プロセスの開発、および(B)大気圧非平衡プラズマ中の液滴の蒸発挙動の解明である。 (A)に関しては、昨年度までに高周波(RF)放電を用いた雰囲気ガス制御型プラズマ援用インクジェット装置を開発した。大気中に配置した自作の放電容器内に放電ガスを導入し、その放電容器にインクジェット装置を挿入する形式である。放電ガスの組成・流量や放電電力等を調整することで、雰囲気温度、活性種の種類、処理時間等の制御が可能である。本装置によって、各種微粒子合成プロセスの開発に取り組み、初期原料濃度の調整によって、粒径を数百nmから数μmの範囲で制御しながら単分散(粒子径の変動係数<0.1)な金粒子を合成した。従来のミストプラズマプロセスでは粒子径の変動係数は0.2-0.5程度であり、径の揃ったインクジェット液滴を用いた効果が示された。更に、サイズの制御のみならず合成粒子の形状や物性までも制御することを目的として、現在酸化亜鉛や酸化ジルコニウムの粒子合成プロセス開発に取り組んでいる。 (B)に関しては、インクジェット装置の制御性の高さを利用して、液滴の吐出タイミングをイメージングカメラ等と同期することで、大気圧非平衡プラズマ中での液滴の蒸発挙動を観察した。更に、発光分光測定等を用いてプラズマ中のガス温度や電子密度等を推定した。これらの実験的データを元に、大気圧非平衡プラズマ中の液滴の蒸発挙動のモデル化を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
これまでの研究計画としては、(A)雰囲気ガス制御型プラズマ援用インクジェット装置を用いた単分散粒子合成プロセスの開発、および(B)大気圧非平衡プラズマ中のインクジェット液滴の蒸発挙動の解明に大別される。 (A)においては、塩化金酸水溶液からサブミクロンの単分散(粒子径の変動係数<0.1)金粒子を合成した。径の揃ったインクジェット液滴を原料液滴として用い、プラズマ中で再現性の高いマイクロリアクターとなったためと考えられる。また、初期水溶液濃度によって平均粒径を制御可能であった。更に、サイズの制御のみならず合成粒子の形状や物性までも制御することを目的として、酸化亜鉛や酸化ジルコニウムの粒子合成に取り組んだ。酸化ジルコニウム粒子の合成においては、投入電力等を調整することで液滴の蒸発速度を制御し、密な粒子や中空な粒子等、粒子形状を変化させることが可能であった。また、合成時のプラズマパラメータによって酸化亜鉛粒子の蛍光特性が変化する等、物性制御も可能であることが示唆されている。このように、サイズ、形状、物性を高度に制御した再現性の高い粒子合成プロセスの創製に向けて着々と歩みを進めている。 (B)においては、インクジェット液滴の吐出タイミングを、イメージングシステムや発光分光装置等と同期することで、プラズマ中の微小液滴の蒸発挙動や、周囲のプラズマのガス温度・電子密度等をその場で観察した。これらの実験的な情報を元にして、液滴の蒸発モデルを立て、蒸発挙動の計算シミュレーションに着手している。実験的結果とシミュレーションを比較検討することで、大気圧非平衡プラズマ中の液滴の蒸発モデルを例証する。実験に関してはデータ収集が順調に進み、シミュレーションとの比較検討段階に入っている。これらを通じて、未だ未解明な点も多い大気圧非平衡プラズマ-液相相互作用に関する知見を得る。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度は、高周波電源を用いた雰囲気ガス制御型プラズマ援用インクジェット装置を開発し、粒径の揃った(変動係数10%以下)サブミクロン金粒子の合成プロセスを開発した。今後は、本装置を用いて、酸化亜鉛や酸化ジルコニウム等の材料の粒子合成を進めていく。昨年度は、合成粒子のサイズの制御のみにとどまったが、プラズマのガス温度やガス組成等のパラメータを調整することにより、合成粒子の物性(蛍光特性等)や形状(密な粒子や中空の粒子)の制御も目指す。既に、一部条件において、中空の酸化ジルコニウム粒子の合成に成功している。さらに条件を調整することにより、狙ったサイズ、形状、物性、かつ単分散な粒子の合成プロセス確立を目指す。このように合成した粒子は、光学素子(ランダムレーザー等)や医療分野(ドラッグデリバリーシステム等)への適用を期待している。 また、粒子合成プロセスとともに、プロセス診断にも取り組む。まず、インクジェット装置からの液滴吐出タイミングをイメージングシステム等と同期することによって、大気圧非平衡プラズマ中の液滴のその場観察を行う。更に発光分光測定やレーザー吸収分光測定を行うことで、プラズマの各種温度、密度等の情報を取得する。これらの実験的な情報を元にして、液滴の蒸発モデルを立て、蒸発の計算シミュレーション結果と実験結果を比較することで、大気圧非平衡プラズマ中の液滴の蒸発モデルを例証する。さらに、上記粒子合成のように、液滴内部に溶質を含んだ場合の溶質の空間分布のシミュレーションにも着手している。液滴内部の溶質の分布によって、合成される粒子の最終的な形状が決定されると期待され、実験的に合成した粒子の形状と計算結果を比較することで、プラズマ中の液滴内部の溶質の拡散に関する知見を得る。 最後に、国内外の学会や論文発表にてこれらの成果を報告していくとともに、博士論文としてまとめる。
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