研究課題/領域番号 |
20J21828
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 健吾 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 文化財保存運動 / メタヒストリー / 考古学史 / 文化財行政 / 歴史科学運動 / 革新自治体 / 自治体史 |
研究実績の概要 |
昨年度に続くコロナ禍のなかで、緊急事態宣言の発令と解除の繰りかえし研究計画を大きく変じた。その中で特筆すべきものを記す。 まず、学振取得以前から研究を継続している京都府乙訓地域の文化財保存運動団体「乙訓の文化遺産を守る会」について5月に「地域院生研究フォーラム」で報告し、所属部局の査読付き紀要『年報地域文化研究』25号に投稿、年度内に「「未完の都」から「市民文化」へ ―乙訓の文化遺産を守る会からみた戦後日本と文化財 」として出版された。類似する運動である国民的歴史学運動と比べても文化財保存運動の研究はさらに少なく、運動モデルの提示という意味でも貴重なものといえるだろう。研究の過程で向日市立図書館などでの調査や連続刊行物の古書市場での購入などの必要があり、研究費も非常に役に立った。 また緊急事態下に大阪で開催された全国規模の保存運動団体「文化財保存全国協議会」の踏査・大会に出席、堺市の百舌鳥古墳群の見学を果たし、高度経済成長期以来遺跡の保護行政・保存運動に従事してきた考古学者との交流も果たした。大会に関する小稿が同会の会誌『明日への文化財』に掲載されたことも付記しておく。 このほか断続的に上洛し、京大文学部図書館での考古学同人の閲覧、歴彩館での革新府政下の民主団体機関誌の閲覧などを行い、オンライン上で横浜港北地域のアーカイブ団体への関与も継続している。未整理のものを整理しつつ、昨年度の口頭報告業績や調査成果も踏まえて博論の執筆にとりかかるのが本年の課題となろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍においてフィールドワーク主体の研究は大きな変更を迫られた。昨年度に引き続き研究遂行に不可欠な保存運動当事者やそれに参与した知識人・初期の行政内研究者(自治体埋蔵文化財担当者)への接触が大幅に制約を強いられたのは研究の進展に大きな制約を与えた。 その中で本年、自治体図書館の開館時間などの制約がある中で保存運動団体の運動史の活字化に成功したのは大きな成果と評価できよう。また、コロナ禍において感染などに注意を払いつつ高齢のインフォーマントとの接触を再開し、「文化財保存全国協議会」など今まで接触のなかった保存運動団体との接触を開始できたのも大きな成果といえる。 ただし、反面昨年度課題とした個別の歴史家・考古学者を対象にした思想史・運動史の論文は執筆途上であり、調査によって得た同人・会誌などには未整理のものも多い。オーラル調査の可否や革新自治体論など新しい領域への展開など課題は山積しているが、未整理の資料の整理や博士論文の執筆など現実的な課題が析出しているのもまた事実である。 査読論文投稿の成功とほかの面での停滞を天秤にかけ、コロナ禍におけるある種必然的な研究計画の乱れを勘案した時、研究状況は――中間年度でのある種の中間決算的な意味合いも含めて――「(2)おおむね順調に進展している」と評価できよう。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍の影響もあり大きく変じた研究計画ではあるが、昨年度査読論文掲載が叶ったことも踏まえ、博論執筆のスケジュールも勘案しつつ、調査と成果の出版・報告の両立を図っていく。 まず最低限度の目標として、国民的歴史学運動に参加した日本史家・黒田俊雄の保存運動や自治体史編纂への参与に関わる論文を『日本研究』(春期・秋期二度投稿機会有)乃至思想史系の雑誌へ投稿し掲載を目指す。 また、口頭報告として例年秋期に開催される「史学会」大会において戦後日本の考古学の学問的な規模の拡大に深く関与した京都大学の考古学者・小林行雄に関わる報告を構想している。大阪を中心とする関西圏の公立図書館や大学文書館が調査対象として予想されよう。 さらに、時局の進展を見つつではあるが、中部地方の遺跡や博物館・図書館の見学や調査を行いたい。保存運動で有名な伊場遺跡(静岡県)、発掘運動実践が長期的に展開された見晴台遺跡(愛知県)・野尻湖湖底遺跡(長野県)などの見学は実行したい。殊に発掘運動実践の「金字塔」の呼び声も高い岡山県月の輪古墳の見学はインフォーマントとの調整を開始しつつあり、学振の継続期間内に調査を遂行できそうである。 高齢者へのオーラル調査についてはコロナ禍による困難があり、やむを得ず先送りにしているが、既出乙訓の文化遺産を守る会のほか、オンライン上ではあるが横浜市港北地域について同市都筑区のアーカイブ団体「つづきアーカイブクラブ」との交流も続き、本年度中に関東・関西とも対面での会合出や資料調査への参加が叶いそうである。棚上げになっている革新自治体や都市工学系の資料の整理も含めて、博論研究全体の進捗を勘案しつつ、なるべく多くの成果と資料を次年度末までに得たい。
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