研究課題/領域番号 |
20J21836
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
高橋 祐人 東北大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 遺伝子発現 / 核構造 / 早老症 / 核内アクチン繊維 / ラミンA / プロジェリン / テラヘルツ光 |
研究実績の概要 |
真核生物の遺伝情報を担うDNAは核内タンパク質との複合体であるクロマチンの状態で細胞核(核)に収納されている。核膜内側に存在する核ラミナは、正常な核構造を形成させる核骨格として機能する。健常者と比較して老化が異常に早く進行する難病である早老症の患者の細胞では、核ラミナを構成する主要な因子であるラミンAに変異が発生したプロジェリンが発現している。プロジェリンが核に蓄積することで正常な核機能に様々な異常が生じ、早老症病態が発現すると予想されている。プロジェリンは健常者の老化細胞でも発現しており、早老症発症メカニズムを明らかにすることで老化発生の仕組みが解明できることが期待される。 核内アクチン繊維は核内で一過的に形成されるアクチンの重合体であり、正常な核構造形成やDNA損傷修復、遺伝子発現に重要な役割を果たす核内構造体である。初年度までの研究で、早老症細胞では核内アクチン繊維が減少し、これがWnt標的遺伝子の発現減少や核構造異常といった早老症病態を生じさせることを見出していた。そのため当該年度は早老症細胞で核内アクチン繊維が減少する詳細な分子機構解明のための研究に着手した。核内アクチン繊維形成を促進するラミンAタンパク質は核膜周辺と核内部の核質の二か所に存在する。主に核膜に存在するS22A変異体ラミンAと、核質に優先的に存在するS22D変異体ラミンAをそれぞれ発現させて核内アクチン繊維の変化を調べたところ、S22D変異体ラミンAが発現したときに核内アクチン繊維が減少した。この結果と早老症細胞では核膜のラミンA構造が異常となっている情報も併せて考察すると、核膜に存在するラミンAが核内アクチン繊維形成に重要であり、早老症細胞では核膜のラミンAに異常が生じて核内アクチン繊維形成が損なわれている可能性が示唆された。当該年度の研究で得られた新たな知見を、2回の国内学会で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、早老症細胞で核内アクチン繊維形成減少がどのような分子機構により生じているか明らかにすることと、早老症細胞で生じる核内アクチン繊維減少を治療することによる細胞老化抑制方法の確立を目的とする。まず前者の目的から研究成果を鑑みると、当該年度は核膜と核質の二か所に存在するラミンAの核内アクチン繊維形成に果たす役割の違いと、核膜のラミンA異常が早老症での核内アクチン繊維減少の原因となる可能性を見出すことができた。この進捗は、早老症細胞で核内アクチン繊維形成が損なわれる分子機構解明のための重要な研究結果であるため、研究が進展したと言える。 また、後者の細胞老化抑制を見据えた早老症細胞での核内アクチン繊維減少の治療方法の確立のために当該年度は核内アクチン繊維形成を促進する薬剤を探索した。その結果、DNAに結合する化合物Hは早老症細胞で核内アクチン繊維形成を促進することを発見した。現在はこの化合物の早老症病態治療可能性を探っている。この結果は、人為的な早老症細胞の核内アクチン繊維形成回復のための足掛かりとなる成果である。化合物Hによる早老症病態治療への応用可能性はテラヘルツ光を利用した早老症病態抑制実験の重要な参考となり、最終年度に計画しているテラヘルツ光に向け、研究は順調に進展していると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度までの研究で核膜のラミンA構造が異常となることで核内アクチン繊維が減少し、早老症病態が発現することを明らかにできた。今後は早老症細胞の核内アクチン繊維減少の治療による細胞老化抑制に注力する。まず現在までの進捗状況の欄に記した核内アクチン繊維形成を促進する化合物Hで処理した場合、早老症の核形態異常や遺伝子発現異常、DNA損傷の増加といった早老症病態が回復するか調べる。 薬剤を用いた手法や、外来的にアクチン遺伝子を導入するような従来のアクチン繊維化を促進する方法は一過的にアクチンの繊維化を促進できず、細胞毒性が高いという欠点がある。そこで、アクチンの繊維化を促進するテラヘルツ光を早老症細胞に照射し、こちらの実験においても核形態異常や遺伝子発現異常といった早老症病態が緩和するか調べる。以上のような実験を通して核内アクチン繊維減少の治療による細胞老化抑制の基盤を確立することを計画している。
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