研究課題/領域番号 |
20J21853
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
沼 知里 神戸大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
|
キーワード | ストレス / 抑うつ / 神経細胞萎縮 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
社会や環境から受けるストレスは、抑うつや不安といった情動変容を引き起こし、精神疾患のリスクとなる。これまでマウスうつ病モデルである反復社会挫折ストレスマウスにおいて内側前頭前皮質の神経細胞萎縮がストレスによる情動変容の基盤であることが明らかにされてきたが、その分子・細胞内メカニズムは明らかにされていない。本研究の目的はストレスによる細胞内微細構造変化や分子変化とそれらの病態的意義を明らかにし、精神疾患の創薬に貢献することを目的とする。令和二年度に、ストレスが内側前頭前皮質神経細胞において、ミトコンドリアの機能構造変化に起因するシグナル伝達を介して、神経細胞の機能形態変化やうつ様行動を促すことが示唆された。令和三年度は、神経細胞機能形態変化の分子基盤を調べるため、シナプス分画のプロテオミクスデータを多変量解析にかけた。その結果、ストレスがミトコンドリアや代謝に関連するタンパク質発現を抑制する一方、ストレス抵抗性に関連して一部のマウスではミトコンドリア機能に携わる分子群の発現上昇をもたらすことを見出した。さらにマウス生体内での神経細胞形態の動的変化と神経細胞機能の変化を調べるため、マイクロプリズムと二光子顕微鏡法を合わせた内側前頭前皮質の生体内イメージング技術を社会挫折ストレスモデルにおいて確立した。この技術を用いて神経細胞における樹状突起委縮や形態変化を経時的に観察している。並行して神経活動変化を生体内カルシウムイメージングにより調べており、これまでにストレスが内側前頭前皮質深層において錐体細胞の神経活動を減弱させることを見出しつつある。上述の結果から、ミトコンドリアが関与する細胞内分子変化が興奮性神経細胞の活動変化を介してストレスによる情動変容をもたらすこと、ミトコンドリア関連分子の発現上昇によりうつ様行動が改善されることを明らかにしつつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和二年度に膨張顕微鏡法による超解像イメージングや三次元電子顕微鏡を用いた微細形態観察を行い、樹状突起の委縮、形態変化に伴う樹状突起ミトコンドリアの短縮とシナプス性ミトコンドリアに関連するシナプス委縮を見出した。並行してシナプス分画におけるミトコンドリア機能解析を行い、ミトコンドリア内膜の電位変化やミトコンドリア性細胞死を担うCaspase3の活性化を明らかにした。上述の結果からストレスが内側前頭前皮質神経細胞においてミトコンドリアの機能構造変化に起因するシグナル伝達を介して、神経細胞の機能形態変化やうつ様行動を促すことが示唆された。令和二年度から三年度にかけて、ミトコンドリアに関連するシナプス委縮の分子基盤を調べるため、種々のオミクス解析と得られたデータの多変量解析を行った。その結果、ストレスがミトコンドリアや多種の代謝に関連するタンパク質発現を抑制する一方、ストレス抵抗性を示す一部のマウス個体においてミトコンドリア機能に携わる分子群の発現上昇を見出し、ミトコンドリア関連分子群の発現とうつ様行動への関連が示唆された。さらにマウス生体内での神経細胞形態の動的変化と神経細胞機能の変化を調べるため、マイクロプリズムと二光子顕微鏡法を合わせた内側前頭前皮質の生体内イメージング技術を社会挫折ストレスモデルにおいて確立した。この技術を用いて神経細胞における樹状突起委縮や形態変化を経時的に観察している。並行してGCaMPを用いた生体内カルシウムイメージングと自動細胞検出の手法を確立し、ストレスによる神経活動変化を調べている。これまでに内側前頭前皮質深層においてストレスが錐体細胞の神経活動を減弱させることを見出しつつある。このようにミトコンドリアが関与する細胞内変化が興奮性神経細胞の活動変化を通じてストレスによる情動変容をもたらすことを見い出しつつある。
|
今後の研究の推進方策 |
令和四年度は、前年度に立ち上げた社会挫折ストレスモデルの内側前頭前皮質における生体内イメージング技術を用いて、慢性ストレスにより生じる神経活動変化を明らかにする。さらに、神経細胞間の同期的活動性や層特異的な神経活動に着目し、神経活動変容の基盤となる神経回路メカニズムに迫る。自由運動下で神経活動を計測できるファイバーフォトメトリー技術を用いてストレスにより神経活動変化が生じる行動ドメインを調べる。すなわち相互補完的な神経活動測定技術を活用し、ストレスによる神経活動変化の全容を明らかにする。これまでに自身で立ち上げた超解像イメージング技術である膨張顕微鏡法を用い、ストレス後に樹状突起の形態変化や萎縮が生じることを見出しつつある。今年度はサンプル数を増やし、本解析を完了する。並行して神経細胞樹状突起の委縮や形態変化を二光子イメージングにより経時的に観察し、樹状突起に生じる形態変化と樹状突起分枝の消失の関連性を調べる。 前年度に神経細胞病態変化の分子メカニズムを調べるため種々のオミクス解析を行い、ストレスによる中央代謝経路の変容や統合的ストレス応答の誘導が示唆された。今年度はこれらの分子変化が神経細胞病態変化に寄与するかを調べる。既に、中央代謝系を担う分子の発現抑制によりストレス後のうつ様行動を減弱できることを見出しつつある。そのため、上述した二光子イメージングやファイバーフォトメトリー技術を用いて、中央代謝系変化が担う神経活動変化を明らかにする。加えて、統合的ストレス応答においては、その下流で活性化される転写因子のmRNA発現亢進がストレス抵抗性に関連して生じることを見いだしている。統合的ストレス応答の主要制御因子やそのリン酸化酵素の活性化を調べ、重要なリン酸化酵素が明らかになった場合、その活性を薬理学的もしくは分子生物学的に操作し、ストレス病態における役割を明らかにする。
|