研究課題/領域番号 |
20J21866
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
粂 潤哉 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 重力波 / KAGRA / 雑音除去 / 原始重力波 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、独立成分解析(ICA)という信号処理手法を、重力波データ解析における非ガウス雑音の除去手法として実装することに注力した。KAGRA初の観測データ、O3GKデータからのオフライン雑音除去を行い、数百Hzの周波数帯域での音響雑音、百Hz以下の帯域の防振システムの制御雑音を部分的に取り除くことに成功した。一方で非線形な結合に対処可能なICAの実装にも現在取り組んでいる。観測データ中の非線形効果が顕著な雑音成分に対して当該手法を適用し、削減することに成功した。この結果は、ICAの雑音除去手法としての堅牢性を示す重要な結果であると言え、本手法のさらなる拡充を動機付けるものである。 並行して、背景重力波観測に向けた理論的研究も進めた。初期宇宙からの背景重力波は非常に微弱なものであり、信号検出を実現するためには、信号の理論予測を精密なものとすることが必要不可欠である。このような動機付けのもと本年度は特に、宇宙ひもからの重力波観測の研究を行なった。宇宙ひもは標準模型を超える素粒子模型において予言される位相欠陥で、対称性の破れのスケールによっては観測可能な強度の背景重力波を生成することが知られている。ヘルシンキ大学のHindmarsh教授の協力のもと、粒子放射の影響も考慮した宇宙ひも由来の背景重力波の解析的計算を行い、パルサータイミングアレイによる観測結果をもとにした制限を得ることに成功した。 この他、原始重力波の生成・伝播に関する理論的研究も進めた。その一環として特に、カイラル非対称な原始プラズマを伝播した際の重力波の左右偏極非対称が非自明な時間発展を遂げることを突き止めた。この成果は、今後の背景重力波観測における左右偏光非対称の測定を動機付ける重要な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の重要な成果として、ICAが非線形な結合の雑音にも有効な手法であることが示された、ということが挙げられる。非線形な雑音は観測データのクリーニングにおける重大な障壁の一つであり、その対策への道筋が示されたことは、当該分野における大きな進展であると言える。これに加え、左右偏光非対称や宇宙ひも由来の背景重力波など、本年度は原始重力波に関する理論的研究においても成果が上げられたため、当初の計画よりも進展が著しいと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度得られた非線形雑音除去の成果は、特定の結合にフォーカスしたものであった。より一般の(非線形)雑音に対して有効な手法とするため、引き続き地上検出器データでの雑音除去を通して本手法の開発・発展に取り組む。 また、これまでに実装した手法や、研究を通して得られた原始重力波に関する理論予測を総動員することで、KAGRAを含めた地上検出器ネットワークによる偏光測定や、LISA、DECIGOのような宇宙検出器における前景雑音除去、背景重力波観測可能性の評価、といった研究にも取り組んで行きたいと考えている。
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