研究課題/領域番号 |
20J21879
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐久間 涼子 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 熱励起エバネッセント波 / 近接場計測 / パッシブ計測 / 分光 |
研究実績の概要 |
本研究は,物質のミクロなダイナミクス(電子運動や格子振動等)により発生する熱励起エバネッセント波の分光測定を実施し,物質上の局所電磁波特性を明らかにすることを目的としている.令和2年度では,光学部品(レンズ等)を最適化することにより,開発中であるパッシブ型(外部光源を用いない計測方法)近接場分光顕微鏡の検出波長帯域を8-16 μmに拡張した.また,SiC上の近接場1D分光測定を行い,開発したパッシブ型近接場分光顕微鏡の妥当性を示した. 光学部品の最適化では,レンズ反射防止膜を従来の14 μmから12 μmと短波長側にシフトさせたことで,検出波長帯域8-16 μmの電磁波透過率の積分値を最大化した.従来では短波長側(8-11 μm)の検出が困難だったが,新しい光学系を用いることで,帯域全体の電磁波検出が可能になった.また,外部光入射および加熱を用いない近接場計測を実施した.空間分解能約200 nmで熱励起エバネッセント波の近接場信号を確認した. さらに,SiC基板上にAuマイクロパターンを蒸着した試料を用いて,近接場1D分光計測を実施した.本実験では,拡張波長帯域(8-16 μm)を有する検出器である3色CSIP(charge sensitive infrared phototransistor)ではなく,従来から用いている単色CSIP(波長帯域:13.7-15.3 μm)を用いた.近接場分光計測では,SiC上の局所状態密度の計算値と同様の傾向が得られたことから,開発した分光顕微鏡を用いることでパッシブ近接場分光測定が可能なことを示した. 令和2年度では,開発を進めているパッシブ型近接場分光顕微鏡をより実用化に近づけた.今後,本分光顕微鏡により得られるスペクトルから,より詳細な局所電磁波分析やパッシブ散乱理論の確立が期待できる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反射防止膜の最適化による信号効率の最大化は,当初計画をしていた通り検出帯域拡張につながった.これにより,3色CSIP(波長帯域: 8-16 μm)の実用化に近づいた.しかし,3色CSIPのSN比が予想より大幅に不足していたことから,常温試料上のエバネッセント波検出は困難であると判断した.3色CSIPを導入したパッシブ型近接場分光顕微鏡の実用性を示すため,電流を付加し局所的に高いエネルギ密度を有する試料を作製し,それを用いた近接場計測を実施したが,十分なSN比を得ることはできなかった.したがって,従来用いていた単色CSIPによる近接場分光計測を実施した.波長帯域の拡張は課題として残ってはいるが,近接場信号の分光をパッシブで初めて達成した.
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今後の研究の推進方策 |
構築したパッシブ型近接場分光顕微鏡を用いて,半導体や金属上の熱励起エバネッセント波の局在特性を明らかにする.特に,表面フォノンポラリトン共鳴を長波長赤外帯域に有する半導体材料(GaN, AlN)の近接場分光測定を実施する.ポラリトン共鳴波長付近の散乱特性を明らかにすることで,新しいパッシブ散乱理論を確立する. また,現在SN比不足が課題である3色CSIPの実用化を進める.ノイズの原因を調査し,可能であればノイズフィルタ等を導入することでSN比の向上を目指す.3色CSIPを実用化することで,広い帯域にわたる近接場分光測定につなげる.最終的に,ナノスケール試料の絶対温度測定等の応用測定技術を確立させる.
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