研究実績の概要 |
本年度は、以下の2項目について、研究が遂行された。 (1)α2,6-シアル酸転移酵素IとII遺伝子のノックアウトメダカの表現型解析 α2,6-シアル酸転移酵素IとII (ST6Gal IとII) 遺伝子のノックアウト (KO)メダカの表現型解析に関しては、ST6Gal I-KOメダカでは孵化後1-2週間で致死になり、孵化前の発生段階でもほとんどが心臓の形態異常を示すことが分かった。一方で、ST6Gal II-KOメダカでは心臓の形態異常は観察されず、致死性を示すことはなかった。これらの観察から、ST6Gal I酵素が心臓形成において重要な機能を果たしていることが示唆された。 (2)α2,6-結合シアル酸 (Sia)担体タンパク質の同定 (1)より、ST6Gal I-とII-KOメダカにおいて、心臓に表現型の違いが観察された。そこで、実際に心臓におけるα2,6-Sia担体タンパク質の同定を試みた。ST6Gal II-KOメダカ(ST6Gal Iのみがα2,6-Siaを生合成する)の心臓を用い、ST6Gal Iが形成するα2,6-Sia担体タンパク質をSNAレクチンブロッティングと質量分析によって解析した。その結果、その1つの候補分子として、分子Xを同定することに成功した。また、ウサギを用いて、同定した分子Xに対するポリクローナル抗体を作製した。以上より、分子X及びその分子上のα2,6-Siaがメダカの心臓形成に関わることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ST6Gal I-及びII-KOメダカの表現型解析とα2,6-Sia担体タンパク質の同定の2項目について、研究が遂行された。ST6Gal I-及びII-KOメダカの表現型解析に関しては、孵化前の発生段階において、両者で心臓の形態異常の有無が観察され、ST6Gal I酵素が心臓形成において重要な機能を果たしていることが初めて示唆され、今後の研究の方向性として心臓を標的と定めることができた。また、実際に心臓に着目し、ST6Gal Iが形成するα2,6-Sia担体タンパク質の候補分子として、分子Xを同定することに成功した。また、第21回比較グライコーム研究会および第16回「若手の力」フォーラムにおいて本研究の一部を発表し、いずれにおいても奨励賞を受賞した。以上の内容を踏まえ、研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
ST6Gal I-及びII-KOメダカの表現型解析に関しては、今回見出された孵化前の発生段階における心臓の形態異常を焦点に置き、両者の違いを定量的に解析するとともに、レクチン染色やヘマトキシリン・エオシン染色による組織形態観察を行い、両者の表現型の特徴をさらに明らかにしていく。また、α2,6-Sia担体タンパク質の同定に関しては、野生型及び変異体個体に対して、SNAレクチンブロッティングと質量分析によってST6Gal Iが形成するα2,6-Sia担体タンパク質をさらに同定する。そして、質量分析によるSia結合様式を含めたグライコーム解析を行うことで、その分子上の糖鎖構造を解析し、α2,6-Sia担体タンパク質及びそのα2,6-Siaの存在の心臓形成における役割について、詳細に解析していく。さらに、Siaの結合様式多様性の意義の解明のために、ST6Gal遺伝子部位に、α2,3結合シアル酸転移酵素ST3Gal遺伝子をノックイン (KI)したST3Gal-KIメダカの作出に着手し、その表現型を解析する予定である。
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