研究課題/領域番号 |
20J21925
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
佐伯 龍聖 長崎大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 陽極酸化 / ナノチャネル / 電析 / 強磁性金属 / ナノワイヤー / 磁気特性 / 電極触媒 / 機械的特性 |
研究実績の概要 |
本年度は、錯化剤を含有する水溶液(錯体浴)を用いて鉄族金属基合金電析膜を作製し、その構造解析ならびに物性評価に取り組んだ。電析膜の表面形態は走査型電子顕微鏡を用いて観察した。また、X線回折プロファイルおよび透過型電子顕微鏡による電子線回折像に基づいて結晶構造を解析した。各元素の化学状態は、X線光電子分光分析装置を使用して分析した。さらに、振動試料型磁力計およびビッカース硬度計を駆使して、合金電析膜の磁気特性および微小硬度特性を評価した。研究成果は、国際学術雑誌3報において当該年度中に発表または受理されており、以下で簡単に紹介する。 (1)DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)錯体浴を用いた定電位電解法により、Fe-Crステンレス合金電析膜を作製した。Cr含有率の増加に伴って、電析膜の飽和磁化は減少し、強磁性が失われた。一方で、固溶強化と結晶粒微細化による強化機構を介して微小硬度は向上し、最大で422.0 kgf/mm2に達した。 (2)クエン酸を含有する電解浴を用いて、誘起共析機構を介したCo-Mo合金の電析を行った。Mo含有率の増加に伴って電析膜の微小硬度は向上し、最大で845 kgf/mm2に達した(純Co:約250~300 kgf/mm2)。また、アモルファス構造を有する高Mo含有率(53at%)の電析膜にアニーリング処理を施すと、700℃を超える温度領域まで再結晶化や酸化挙動が観測されず、優れた耐熱性を有することも確認できた。 (3)電位-pH図および滴定曲線に基づいて、電解浴へのグリシン添加がCo-Cr合金の電析過程に及ぼす影響を考察した。グリシンの添加により、電析中の金属水酸化物の形成が抑制されることを見出した。また、電位制御法によりCo-Cr合金電析膜(Cr含有率:2.4~38.9at%)を作製することに成功し、その微小硬度は最大で624.2kgf/mm2に達した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、Alの陽極酸化処理によって超高アスペクト比型ナノチャネル構造(細孔長さ/細孔径≧1000)を有するアルミナ製テンプレートの開発に取り組んでいる。さらに、水溶液電解法を用いてテンプレートの微細孔中に金属を充填することでナノワイヤー配列構造体を創製し、新しい機能性金属材料として応用することを目指している。主に、鉄族金属(Fe,Co,Ni)やその合金のナノワイヤー配列構造体を作製し、垂直記録媒体などに利用可能な硬質磁性材料や、クリーンなエネルギー媒体として知られる水素を効率良く生成することができる高比表面積型ナノピラー電極材料としての活用することを検討している。 昨年度(令和2年度)は、アルミナ製ナノチャネルテンプレートを開発に取り組み、陽極酸化条件(極間電圧や反応時間など)がテンプレートの細孔構造(細孔径やアスペクト比など)に及ぼす影響を調査した。また、その微細孔内にCoなどの金属を電析してナノワイヤー配列構造体を作製することに成功し、主に磁性材料への応用に向けて研究を行った。 本年度(令和3年度)は、鉄族金属基合金ナノワイヤー配列構造体の作製に先立って、膜形状の電析に取り組み、適切な電解条件(電解浴組成や浴温, 陰極電位など)を模索した。その結果、錯体浴を用いることで、優れた機械的特性を有する鉄族金属基合金電析膜の作製に成功し、研究実績の概要(上記)に示したような成果を得ることができたため、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度(令和3年度)は、錯体浴を用いた電析法により、優れた硬度特性を有する強磁性アモルファス合金(Fe-Cr合金, Co-Mo合金, Co-Cr合金などの鉄族金属基合金)が作製可能であることを報告した。 次年度(令和4年度)は、陽極酸化アルミナ製テンプレートを利用した電析法により、鉄族金属基合金ナノワイヤー配列構造体を作製し、テンプレート(アルミナ)部分のみを溶解させて除去することで高比表面積型ナノピラー電極(多数の柱状金属が配列した電極)を開発することを目指す。 主な研究実施計画としては、電析法によって作製したナノワイヤー配列構造体の外観構造や形態(ナノワイヤーの形状や直径など)は、走査型および透過型電子顕微鏡(SEMおよびTEM)を用いて観察する。また、合金組成はエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を用いて評価する。さらに、結晶構造はX線回折装置(XRD)やTEM(電子線回折)を使用して解析する計画である。その後、濃度を調整したNaOH水溶液を用いてアルミナ部分のみを溶解させることでナノピラー電極を作製する。次に、得られたナノピラー電極を酸性溶液中で陰極として使用し、定電位電解を行った際の陰極電流値を測定することでナノピラー形状化による陰極表面積の増加が水素発生反応に及ぼす影響を調査する。また可能であれば、長時間電解を行った場合の電流値の経時変化などに基づいて、電極触媒材料としての長期安定性も評価したい。 なお、得られた研究成果は論文発表や学会発表を通して積極的に発信していく計画である。
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