研究課題/領域番号 |
20J21945
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大森 徳貴 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 老化細胞 / 老化 / p16 / シングルセルRNA-seq |
研究実績の概要 |
先行研究から、加齢に伴いp16の発現が上昇することが分かっており、個体老化に伴う老化細胞の数の増加・蓄積が示唆されていた。しかし、検出されたp16の発現の上昇が、1細胞あたりの発現量の上昇を示すのか、細胞数の増加に起因するのかは不明であった。そこでまず、前年度で樹立した老化細胞可視化マウスであるp16-CreERT2-tdTomatoマウスに対し、タモキシフェンを投与してp16陽性細胞を標識し切片を作製したところ、様々な臓器・組織にてp16陽性細胞が確認された。次に、2カ月齢と12カ月齢のマウスから採取した肺・肝臓・腎臓・皮膚に対してFACS解析を行ったところ、p16陽性細胞の数が加齢に伴い増加することが分かった。さらに、3カ月齢のマウスにTAMを投与した後に、3・6カ月後の臓器・組織内のp16陽性細胞のクラスター形成の割合や数の変化を解析した。その結果、老化細胞のも重要な性質の一つである不可逆的な増殖停止機能を示唆するように少なくとも解析した時間内においてはp16陽性細胞のクラスター形成の増加は認められなかった。また、細胞数の変化から推測される半減期は肝臓では2.6カ月、腎臓では2.9カ月、肺では4.2カ月であることが明らかとなった。 さらに肝臓と腎臓においてp16陽性細胞を単離し、シングルセルRNA-seq解析を行った。その結果、ほぼすべての細胞種においてp16陽性細胞が検出された。肝臓においては、特に肝類洞内皮細胞(LSECs)において多く認められた。一方、クッパー細胞ではp16陽性細胞が多く存在する細胞集団はクッパー細胞とLSECsの両者の性質を持っていることが明らかになった。腎臓においては近位尿細管上皮細胞と遠位尿細管細胞に多く認められた。これらの結果から、生体内の老化細胞は多様な細胞から誘導され、細胞種ごとに様々な機能変化・性質が認められることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(Ⅰ)当初の予定では、本年度でp16-CreERT2-tdTomatoマウスに対しFACSを行い、p16陽性細胞を回収しシングルセルRNA-seq解析を行う予定であった。実際に行うことができ、比較解析も行うことができた。本実験により、次年度に予定していた誘導要因の解析には細胞数が足りないことが明らかとなったため、次年度ではもう一度シングルセルRNA-seq解析を行う。 (Ⅱ)p16陽性細胞のターンオーバーや除去効率の違いを明らかにすることを予定していた。実際に、3カ月齢のマウスに対してラベルを行い、3・6カ月後に解析することでそのターンオーバーの速度を明らかにすることができた。さらに、ターンオーバーではなく逆の蓄積速度についても検討したいと考え、p16陽性細胞を除去可能なマウスモデルである、p16-CreERT2-DTR-tdTomatoマウスを樹立した。現在、解析を行っている。このマウスモデルは計画にはなかったため、また新しく実験を計画している。 (Ⅲ)G2-p53マウスへのタモキシフェン投与による細胞老化誘導で個体の表現型を解析する予定であった。実際に、個体においても影響が出で、特に個体老化の形質である、白内障、体重減少、背骨の湾曲、脱毛の症状が見られた。 p16-CreERT2-tdTomatoマウスの解析(Ⅰ)(Ⅱ)に関して、論文にまとめることができ、Cell Metabolismで発表することができた。 以上の事柄から、当初の計画以上に進展している、と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究では、p16-CreERT2-tdTomatoマウスは最も加齢したものでも12カ月齢であった。12カ月齢はヒトで換算すると約40歳ほどであり、十分な加齢マウスでの解析とは言えない。そこで、加齢マウスである24カ月齢のp16-CreERT2-tdTomatoマウスに対し、真の加齢状態の老化細胞の性質を明らかにしたいと考えている。 具体的には、加齢マウスの腎臓、肝臓、肺、皮膚に対して、p16陽性細胞と陰性細胞に分け、その割合を計測するとともに、シングルセルRNA-seq解析を行う。これまでは各サンプルで10000細胞を回収していたが、30000細胞にすることでデータを厚くし、より詳細な解析を行う。目的として、特に、膜表面マーカーや特異的に発現が上昇・低下している遺伝子を探索し、新たな老化細胞のマーカーを解明する。また、リガンド・レセプター解析も行い、p16陽性細胞がどのほかの細胞に影響を与えているかなど、生体内における老化細胞のダイナミックを明らかにする。 さらに、p16陰性の細胞も加齢に伴い変化するのではないかと考えており、若齢マウス(3カ月齢)のp16陰性細胞に対してもシングルセルRNA-seq解析を行う。このデータと加齢マウスのp16陰性細胞のデータを比較することで、加齢変化を明らかにする。そして、p16陽性細胞のデータと比較することで、どちらの細胞が加齢変化に重要であるかを解明する。また、経時的にマウスの切片を作成することで、どこの臓器で特に老化細胞が蓄積しやすいのかなどを示し、シングルセルRNA-seqのデータと統合することで、p16陽性細胞を起点としたマウスアトラスを作製する。
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