研究課題/領域番号 |
20J21976
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 鮎美 九州大学, 人間環境学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 超自然的存在 / HADD Theory / 知覚 / 身体化認知 |
研究実績の概要 |
本研究は人が超自然的存在を認識するのはなぜか,その認知メカニズムの詳細を明らかにすることを目的にしている。本年度は外部要因に着目し,環境的物理指標の操作が認知に与える影響について検討を行った。 (1)パレイドリア生起傾向の日内変動 民俗学的文献において,超自然的存在がよく出現するとされる時間帯の言及には偏りが見られる。このため,曖昧な情報から存在しない対象を見出す認知現象であるパレイドリアの検出課題を用いて,超自然的存在と関連して言及される逢魔時(17時-19時)と丑三時(午前1時-3時)における知覚情報の評価について検証を実施した。結果,パレイドリア画像に対する顔有無の判断傾向には,正午と比較して逢魔時と丑三時において,曖昧な視覚情報に対する顔への反応バイアスがあることが示された。反応バイアスが生じた原因を究明するための実験ではこの結果は再現されなかったが,実験中に超自然的存在と関連する時刻を意識したグループにおいてのみ逢魔時と丑三時で顔への反応バイアスが生じることが示された。これらの実験結果から,超自然的存在を意識することが曖昧な情報の処理に影響している可能性が示唆された。本研究結果は国内学会にて成果の報告がなされた。 (2)フィールドワーク調査 超自然的存在と関連深い霊場や怪奇伝承は山深い高所と関連付けられることが多い。このため,高所での環境要因の探索と物理指標の収集を行うべく,熊本県阿蘇山,九重連山にてフィールドワーク調査を実施した。この際,標高ごとの明朝と日中の気温と湿度を測定した。さらに本年度においては,福岡県内での怪異に関わる情報やニュースを手掛かりに,墓跡が遺棄されている海岸に赴くなどし,データ収集を行った。これら調査によって収集されたデータを今後の認知実験に反映させていくことで,超自然的存在の認識に関わる要因の特定に活用していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は文化人類学・民俗学の文献を元に野外でのフィールドワーク調査を実施し,そこで収集した環境要因を用いて認知実験を進める予定であった。しかし,コロナウイルス流行の影響を受け,野外調査は数度自粛した。さらに,密空間を生み出す実験室実験は実施を控えた。これらの遅れを取り戻して研究計画を立て直すべく,人の少ない山野を対象としたフィールド調査を先行して実行し,オンライン実験で遂行可能な要因に着目した実験から優先して着手した。このように昨年度の情勢下で実行できる範囲で研究を進めた。また,研究会に参加して成果の発表を行った他,共同研究の結果を国際誌へ投稿するなどした。 これらの経過から,実行順序に前後する部分はあったが,計画の遂行に大きな遅れは無く,おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度においては,前年度中止したフィールドワーク予定地を中心に野外での環境要因データを精力的に行う。遠距離調査と共に,山野のみでなく街中での調査も実施予定である。 また,これらのデータと前年度までのデータを元に,実験室実験を再開させ,認知実験を進める。寒冷条件でのパレイドリア実験,並びに時間帯ごとの認知実験に優先的に取り組む。 さらに,超自然的存在の認知メカニズムの解明のために,これら調査と実験の実施によって知覚を構成する要因,または認知現象についてのデータ収集を進める。これらの成果は積極的に国内外の学会で発表していく。
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