アーバスキュラー菌根(AM)共生は、約7割の陸上植物種とAM菌の間で成立する相利的な関係である。AM共生は陸上植物の共通祖先が陸上に進出した頃から始まったと考えられており、陸上植物はAM共生に関わる分子メカニズムを流用して多様な土壌微生物との共生も可能にしてきた。一方で、森林の物質循環を担う外生菌根(ECM)共生における制御メカニズムもAM共生から派生したものであるかは明らかになっていない。本研究「アーバスキュラー菌根共生の制御メカニズムは外生菌根共生の成立に関与するのか?」は、AM菌とECM菌の両方と共生する被子植物ユーカリ(Eucalyptus grandis)を用いて、ECM共生の制御メカニズムを分子レベルで解明することを目的とした。 ユーカリ実生にモデルAM菌Rhizophagus irregularis DAOM197198またはECM菌コツブタケ(Pitholithus arrhizus TUFC101594)を接種し、4週間培養したユーカリの側根から回収したRNAをトランスクリプトーム解析に供試した。その結果、AM共生とECM共生中に発現量が変動した共通の遺伝子数は、全体の2%程度(33遺伝子)であることがわかった。また、マメ科タルウマゴヤシにおけるAM共生に必須な遺伝子と相同なユーカリの遺伝子が、AM共生中に発現量が有意に増加することが明らかになった。興味深いことに、ECM菌根では、これらAM共生関連遺伝子の発現は促進されていなかった。 以上のことから、AM菌とECM菌が感染したユーカリ根は、それぞれの菌に特異的な転写反応を示すことがわかった。現在、本研究成果をまとめた論文を執筆中である。
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