研究課題/領域番号 |
20J22012
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
中川 優子 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 音楽思想 / 雅楽 / 近世日本 / 熊沢蕃山 / 貝原益軒 / 礼楽思想 / 儒学 / 儒教 |
研究実績の概要 |
本年度は、近世前期(17世紀後半ごろ)に活躍した儒学者のうち、とくに熊沢蕃山(1619~1691)と貝原益軒(1630~1714)の音楽思想を検討した。まずは修士研究の成果をふまえつつ、貝原益軒における「楽」の思想や雅楽とのかかわりについて、彼の日記や書簡、および雅楽にかんする学習成果がまとめられた著作といえる『音楽紀聞』やその他の雅楽器にかんする言説から再検討し、論文にまとめた。ついで熊沢蕃山について、彼の雅楽にかんする主著といえる「雅楽解」(『集義外書』所収)のうち、とくに「平家」や「小哥」などと雅楽とを比較するような言説から、当世の音楽文化への理解にもとづく蕃山の「楽」の思想を検討し、日本思想史学会において報告した。また両者の音楽思想を、儒学においてとりわけ礼楽思想が担ってきた概念の一といえる「和」とのかかわりから整理し、儒学の音楽思想にかんするシンポジウムにおいて報告した。 熊沢蕃山と貝原益軒は、それぞれ京都において雅楽の実践的知識を得ており、「楽」を解釈するにあたっても、ともに雅楽にたいする実践的・経験的な理解を呼び込みうる思想を展開していた。このことから、京都の雅楽文化とのかかわり方を注意深くみていくことが、近世日本の儒学における音楽思想の展開を追ううえで必要な作業になることが推察された。さらに両者の思想からは、ともに雅楽の絃楽器にたいする関心の高さがうかがえたため、楽器観という論点もまた、近世前期から中期にかけての思想の展開を追ううえでの一つの検討の視座になり得ることがみえてきた。総じて、近世中期との関係性を考えていくうえでも、近世前期における「楽」の思想の在り方をより詳細に検討していく必要があると判断するに至ったため、今後は当初の予定を若干変更し、引き続き近世前期の儒学者による著作内容の検討に多くの時間を割くという方針を定めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初行う予定であった資料調査については延期しており、また研究課題全体の計画方針にも若干の変更を加えたものの、熊沢蕃山や貝原益軒の思想内容を詳細に検討したことで、近世前期の音楽思想の特徴や、近世中期にかけての展開を考えていくうえでの重要な論点を得ることができた。また日本思想史あるいは中国思想・中国哲学にかんする学会ないしシンポジウムに参加して発表を行い、領域の異なる専門家との間で意見交換を行ったことは大きな収穫であり、今後研究をすすめていくうえで必要な複眼的視野を得ることにもつながった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には初年度に引き続き、近世前期の儒学者における音楽思想の検討を行う。まず熊沢蕃山における十二律・律呂などにかんする論を検討し、蕃山の雅楽観についてさらなる考察をすすめる。さらに、近世前期の音楽思想について、ひとつの論点にもとづき俯瞰する作業を試みる。とくに楽器観(琴・和琴・箏など)について、熊沢蕃山、貝原益軒、武富咸亮(1637~1718)の三者における言説や実践の様相をまとめ、絃楽器を中心にどのような思想が醸成されていったのかを明らかにする予定である。さらに近世中期(およそ18世紀以降)の思想を検討していくための下準備として、とりわけ新井白石(1657~1725)の「楽」にかんする言説資料の整理を行う。また、初年度には実施することができなかった資料調査(福岡県、広島県などを予定)についても、新型コロナウイルスの状況に鑑みつつ順次開始する。
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