研究課題/領域番号 |
20J22068
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
齋藤 健吾 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 脳回形成 / フェレット |
研究実績の概要 |
大脳皮質は高次脳機能の中枢であり、様々な神経変性疾患や発達障害などの病変の首座であることから、その形成を制御する分子メカニズムが注目されている。ヒトなど高等哺乳動物では大脳皮質が特に発達しており、大脳皮質の表面には脳回と呼ばれるシワが存在している。脳回の存在により、限られた頭蓋容積内で大脳皮質の表面積と神経細胞の数を増やすことが可能となり、その結果として高次脳機能の発達が可能になったと考えられている。従って、発生過程における脳回の形成メカニズムは重要な研究課題であるが、その実験的検証は遅れている。所属研究室ではこれまでに、脳回を持つ哺乳動物フェレットに対する遺伝子操作技術を確立し、脳回形成における線維芽細胞増殖因子(FGF)やソニックヘッジホッグ(Shh)による神経前駆細胞の増加の重要性を明らかにしてきた。また、我々は神経線維層IFLとOFLの形成過程を検討し、脳回を持たないマウスと比べてフェレットではOFLが増加していること、脳回の形成時期に一致してOFLが著しく増加していることを見いだした。これらの結果から、神経線維やグリア細胞の増加など、神経前駆細胞の増加以外に脳回形成に重要なものがあると着想した。本研究では、フェレットの大脳皮質での遺伝子操作技術を駆使して、神経前駆細胞以外の脳回形成に関わるメカニズムの解明を行っている。これまでに、より多くの細胞へ遺伝子導入が可能であるpiggyBac transposonと、時期依存的に遺伝子導入が可能であるCreERT2を組み合わせた遺伝子発現システムを構築し、フェレットを用いた実験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)フェレットにおけるタモキシフェン投与時期の検討 フェレットを購入し、神経前駆細胞の増加や神経細胞移動に影響を与えず、神経線維伸長やアストロサイトの発達を抑制できる優性不能型Rac1発現誘導時期の検討を行った。子宮内電気穿孔法を用いてフェレット胎仔にプラスミドを導入し、タモキシフェンの投与を生後1日目または5日目より5日間行い優性不能型Rac1を発現させた。その後、生後16日にサンプルを固定し、脳切片の解析を行った。その結果、タモキシフェン投与生後1日目から、5日目からのいずれの条件でも細胞移動への影響は見られなかった。神経突起伸長やアストロサイト発達への影響については現在解析中である。
2)フェレット脳回形成における時期特異的な優性不能型Rac1発現の効果検討 上記、1)の実験サンプルを用いて脳回への影響を観察したところ、予備的なデータではあるが脳回への影響が見られた。今後はサンプル数を増やし、脳回の異常を定量的に解析する予定である。また、現在のサンプルはpiggyBac transposonを用いているため、神経細胞とグリア細胞の両方に遺伝子が導入されている。脳回形成において、神経細胞だけでなくグリア細胞におけるRac1の効果が重要である可能性があるため、詳細な検討を今後行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、より多くの細胞へ遺伝子導入が可能であるpiggyBac transposonと、時期依存的に遺伝子導入が可能であるCreERT2を組み合わせた遺伝子発現システムを構築し、子宮内電気穿孔法を使って予備検討を行ってきた。その結果、神経前駆細胞の増加や神経細胞の移動に影響を与えない時期に、フェレット大脳皮質で遺伝子発現を誘導できる条件を確立した。そこで今後は以下の実験を行う。
1)脳回形成における神経線維の関与 現在得られているサンプルはpiggyBac transposonを用いているため、神経細胞とグリア細胞の両方に遺伝子導入がされている。今後はCaMK2などの神経細胞特異的プロモーターを用いることで、脳回形成における神経線維の関与を明らかにする。 2)脳回形成におけるグリア細胞の関与 前述のように現在得られているサンプルではグリア細胞にも遺伝子が導入されている。今後は、アストロサイトなどのグリア細胞が脳回形成に関与している可能性を検討するため、GFAPなどのアストロサイト特異的プロモーターを用いてグリア細胞の操作を行い、脳回形成におけるグリア細胞の役割を明らかにする。
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