研究課題/領域番号 |
20J22087
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
劉 東欣 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 透過電子顕微鏡 / 電子回折 / 非平衡現象 / 相転移 / 融解 |
研究実績の概要 |
電子線は透過電子顕微鏡やクライオ電子顕微鏡,電子回折等において単原子レベルでの解析を可能にするプローブとして利用される反面,観察対象に種々の変化を誘起するエネルギーを有している.電子線との相互作用を通じてエネルギーが観察対象の物質に伝わると観察対象の物理的・化学的変化が引き起こされる.その結果,解析に必要なシグナルの消失や情報が一部失われることが知られており,電子顕微鏡法や電子回折における高分解観察の障害になっている.電子線が物質にもたらすエネルギー伝達の根幹を成す相互作用として,これまでイオン化やノックオン,種々の励起等が考えられてきたが,シグナル消失に最も影響を及ぼす影響はわかっておらず,また分子レベルで生起する現象の詳細な機構も明らかではない. 本年度は電子線と分子の相互作用により誘起される物理化学的現象を明らかにするため,詳細な構造特徴を内包する電子回折パターン消失に対する速度論的解析を行った.金属錯体やイオン結晶,有機結晶等の様々な化合物に対する検討を行った結果,化合物の種類に関わらず,電子線との相互作用の結果引き起こされる現象の活性化エネルギーは小さいことがわかった.また更なる解析の結果,現象の発生頻度は観察対象の融解エントロピーと強い相関を示したため,電子線と物質との相互作用によって誘起される現象の初期過程は非平衡的融解過程であることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では,透過電子顕微鏡を用いた直接観察による有機反応の機構の決定を目的に研究を行なっている.初年度の研究においては,研究遂行に必須な電子線と物質の相互作用を明らかにするべく,電子回折を利用した速度論解析に取り組んだ.その結果,電子線と物質の相互作用という,当初予想を超えた枠組みでの機構探究に至った.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,本年度で得られた電子・分子間の相互作用に関する知見を活用し,透過電子顕微鏡で観察されるナノスケールの知見が直接マクロスケールにまで適応できる系に対する詳細な機構解析を行うことを目指す.例えば,有機デバイスへの応用が可能な有機分子における分解機構探究に着手する.
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