研究課題/領域番号 |
20J22117
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
厨川 和哉 東北大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 窒化炭素 / 超低摩擦 / 水素 / 酸素分子 / 水分子 / 低摩擦寿命 |
研究実績の概要 |
本研究は水素含有窒化炭素 (CNx:H) 膜を用いた摩擦システムにおける超低摩擦界面形成機構を解明し,大気中無潤滑および水素潤滑による低摩擦システムへ応用展開することを最終目的とする.1年目である本年は,真空環境および窒素ガス環境におけるCNx:H膜の超低摩擦継続性を実験的に調査し,雰囲気,特に酸素分子および水分子が超低摩擦界面形成に及ぼす影響を明らかにした.得られた具体的な結果を以下に示す. 1. 真空環境においてSi3N4とCNx:H膜の摩擦系は,摩擦係数0.05以下の低摩擦を発現した後に,剥離や凝集物の生成を伴わずに摩擦係数0.1程度まで摩擦が上昇する「低摩擦寿命」を示す.その低摩擦継続性は雰囲気圧力の上昇に依存して延長される傾向を示し,雰囲気圧力が約300 Pa以上において劇的に延長されることを明らかにした. 2. 真空環境において低摩擦寿命に達したCNx:H膜の最表層の化学結合割合は,水素に由来する化学結合種 (C-H)の割合が減少し炭素に由来する化学結合種の割合が増加している一方,低摩擦が持続するCNx:H膜の最表層は未しゅう動部と同様の化学結合種割合を維持していることを明らかにした. 3. 真空環境において低摩擦が持続する重水素含有窒化炭素膜の最表層は,含有重水素原子が脱離する一方で,雰囲気水分子由来の水素が10 nm以下の深さにおいて化学的に吸着していることを明らかにした. 4. 酸素濃度および相対湿度が小さい窒素ガス環境(酸素濃度約5ppmO2以下,相対湿度約0.3%RH以下)においてSi3N4とCNx:H膜の摩擦系は,摩擦係数0.05以下の低摩擦を発現した後に摩擦係数0.1程度まで摩擦が上昇する,真空環境と類似した低摩擦寿命を示す.低摩擦継続性は酸素濃度および相対湿度の影響を受け,それぞれが一定値以上になると低摩擦寿命が劇的に延長されることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,水素含有窒化炭素膜を用いた摩擦システムの低摩擦界面形成の継続性に及ぼす摩擦雰囲気の影響として,雰囲気圧力,および窒素雰囲気中の水分子および酸素分子の濃度の影響に着目し,実験期間中低摩擦を維持し続けるための雰囲気圧力の臨界値,窒素雰囲気環境中における相対湿度,酸素濃度の臨界値の存在を明らかにした.また,各摩擦挙動における界面の化学的状態の評価を行った.これは,本研究課題の最終目標であるCNx:H膜を用いた超低摩擦システムの応用展開に対して重要な知見であり,本研究はおおむね順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,CNx:H膜の超低摩擦発現において重要であるトライボ化学反応に着目し,超低摩擦界面形成機構を解明する.そのために,摩擦試験と並行して摩擦界面から発生するガス生成物を検出することが可能なIn-situガス分析システムによる摩擦試験を行い,トライボ化学反応分析を行う予定である.
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