研究課題/領域番号 |
20J22142
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古田 将大 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ケミカルバイオロジー / 創薬化学 / 触媒化学 / 生体内反応 / 光酸素化反応 / アルツハイマー病治療 / 血液脳関門透過性 / 光触媒 |
研究実績の概要 |
生体内での人工的触媒反応により生体分子のマクロな構造変化を誘起し、生物学的機能の発現や病態治療へつなげることを究極的な目標として、ヒストンアシル化触媒系の開発に取り組んだ。従来型触媒の電子密度調節や、官能基の導入というアプローチで、高活性型アシル化触媒の開発を目指したが、従来型より大きく活性を上昇させた改良型触媒の開発は達成できず、本アプローチによる触媒の高活性化を断念した。 一方で、所属研究室ではアミロイドβ(Aβ)ペプチド凝集体の光酸素化触媒の開発研究を行っている。これまでの研究で得られた知見を基に、触媒構造の最適化ができれば、同様に病態治療に応用可能な触媒を開発できると考えて研究に着手した。 アルツハイマー病は進行性神経変性疾患であり、認知機能の低下を引き起こす。Aβはアルツハイマー病の原因物質として知られており、Aβの凝集抑制ができればアルツハイマー病予防・治療につながると考えられている。 所属研究室では光触媒による酸素化反応を利用してAβの凝集性低減・毒性低減に成功していた。しかし、この触媒は血液脳関門(BBB)を通過しないため静脈投与が不可能であった。静脈投与による治療を目指すべく、長波長光での励起が可能でありかつBBB透過性を改善した触媒の開発に取り組んだ。 従来型の光触媒がBBBを透過しないのは、その骨格の大きさが原因であると考え、低分子量ながら長波長光を吸収するアゾベンゼンボロン錯体に着目した。この骨格と発光特性を利用すれば、その分子の小ささによってBBB透過性を上昇させられると考え、本錯体を母骨格として構造展開を行った。その結果、長波長光を吸収し、試験管内で効率よくAβの酸素化を進行させる触媒の開発に成功した。マウスを用いた実験では、BBB透過が確認でき、静脈投与による脳内Aβの光酸素化にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病は進行性神経変性疾患であり、認知機能の低下を引き起こす。社会の高齢化とともにその患者数は年々増加しているが、未だ根本的な治療法は確立しておらず、社会的な問題となっている。 アルツハイマー病の発症メカニズムは直接的には解明されていないが、アミロイドβ(Aβ)ペプチドの凝集がその発症に強く関与しているとするアミロイド仮説が現在広く支持されている。 以上のような背景のもと、所属研究室では触媒的光酸素化反応を施すことでAβの凝集性低減・毒性低減に成功していた。しかし、臨床応用を見据えると、これまで開発された触媒は血液脳関門(BBB)透過性の低さに問題を抱えていた。 その中で、分子内の結合回転によるスイッチング機構に依らない新規機構を利用して分子量を低下させるアプローチをとることで、Aβへの高選択性を維持したまま、触媒分子のBBB透過性を向上させることができた。また、マウスを用いた実験では、本触媒の静脈投与と外部からの光照射によって、マウス脳内でのAβ光酸素化反応に成功した。 以上の結果はアルツハイマー病治療を見据えたうえで大きな進展であり、新規治療概念の確立へと前進したと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は本光酸素化反応によるマウスでの治療効果の発現を目指して、更なる触媒構造の改良に取り組む予定である。まず、触媒自身の活性とBBB透過脳の2点の更なる改善を目指して構造展開を行う。特に、前者については、計算化学を利用して項間交差効率の上昇が期待できる分子デザインを検討する。合成した触媒を試験管内での解析、およびマウスを用いた解析に付し、構造と酸素化活性やBBB透過性の相関を評価することで、触媒高活性化に必要な要素を特定する。その傾向を基に、従来よりも高活性・高BBB透過性を有する触媒を見出す。 また、マウスを用いた光酸素化反応において、十分な反応効率が得られなかったとき、触媒の励起波長が短く、組織透過性に問題がある可能性が考えられる。その場合は、長波長光を吸収可能な触媒の開発に取り組む予定である。
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