研究課題/領域番号 |
20J22160
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野田 康平 東京工業大学, 工学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 光ファイバセンサ / ブリルアン散乱 / 分布計測 / 偏波 |
研究実績の概要 |
本研究では、光ファイバ中の光散乱現象に基づく分布測定技術である光相関領域反射計(OCDR)、及びOCDRに基づいてブリルアン散乱を観測するブリルアンOCDR(BOCDR)の性能向上に取り組んでいる。本年度は大きく二つの成果があった。第一は外部変調方式を用いたBOCDRの性能向上に関するものであり、「外部変調BOCDR」を用いて、通常は正弦波で行われる光周波数の変調をチャープ波形に拡張することで、BOCDRの問題点である測定レンジと空間分解能のトレードオフを改善した。さらに、任意の波形で変調を行う「任意波形変調BOCDR」の空間分解能について理論的に解明した。 第二はBOCDRを用いた偏波状態の分布測定に関するものである。BOCDRでは光ファイバ上の側圧などによって誘起される複屈折の分布に応じて偏波状態が変動するため、観測される干渉光の強度が変動するという問題があった。そこで逆にこの性質を利用し、BOCDRの参照光の偏波状態を制御し、それぞれに対する干渉光を観測することでファイバの複屈折分布を計測できることを実証した。これにより、従来のBOCDRで想定されている歪(長手方向の力)測定に加えて、側圧(径方向の力)を計測する機能を付与できると考えられる。これはBOCDRの性能を拡張するアイデアであるといえる。BOCDRによる偏波計測のコンセプトを確認するため、偏波制御システムなどを構築し、ファイバインライン型の偏波コントローラ内で偏波が変動している様子の観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」で述べた二つめの成果である偏波状態の分布測定技術を用いることで、これまでの歪センシングに加えて側圧センシングを付与できる可能性を発見した。このことは、従来のBOCDRの性能を大幅に向上させられることを示しており、研究の方向性を広げるアイデアであった。BOCDRによる偏波計測のコンセプトを確認するため、偏波制御システムなどを構築し、ファイバインライン型の偏波コントローラ内で偏波が変動している様子の観測に成功した。以上の成果のうち、第一の外部変調BCODRと任意波形変調BOCDRに関する成果はそれぞれ筆頭著者として査読付き学術誌に掲載、またアクセプトされ掲載が確定している。第二の偏波に関する研究成果は国内の学会で3件発表を行い、現在論文を執筆中である。以上の理由から、研究の進捗状況は当初の期待以上であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は偏波BOCDRの根本的な性能向上に重点を置いて研究を進める。具体的には測定ファイバ上の完全な複屈折分布の取得と偏波変動の要因の分離を目標として研究を推進する。そのために、(1)測定ファイバへの入射光の偏波状態を制御可能にする、(2) 実験系を構成するファイバの未知の複屈折によって、測定される偏波状態が受ける影響を除去する、(3) 測定ファイバに印加される側圧や磁場の分離測定を行う、の三点を考えている。以下詳細について説明する。 (1) 入射光の偏波状態と測定ファイバの複屈折の主軸が一致した場合に信号光の偏波変動が生じないという問題がある。この問題を回避するために、参照経路だけでなくポンプ光経路にも偏波制御システムを導入し、入射光の偏波状態を振ることで測定ファイバの複屈折測定を行う。 (2)(3) 測定ファイバからフォトディテクタまでの実験系ファイバに未知の複屈折が存在するため、信号光の偏波が未知の変化を受ける。側圧や磁場などの分離測定のためには、このような未知の偏波回転を補正する必要がある。そのために、実験系の適切な場所に既知の複屈折を有するサンプルを挿入することで未知の偏波回転の影響をキャリブレーションすることを考えている。
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