研究課題/領域番号 |
20J22206
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
多伊良 夏樹 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 酸素発生 / コバルト錯体 / ポリオキソメタレート / 同位体標識法 / DFT計算 / 17O-NMR / GC-MS |
研究実績の概要 |
本研究課題では、POM型WOC(WOC@POM)の活性制御因子の解明を目的とし、最小分子量のWOC@POMであるCo-POM-Moの詳細な機構的研究に取り組んでいる。特に、酸素発生反応の律速過程であるO-O結合形成機構に着目し、従来の活性を上回る触媒開発を行うための設計指針を提示することを最終目標としている。そこで、本年度は、これまでに我々が見出した非対称分子内O-O結合形成機構(i-ONA)の実験的および理論的実証を同位体標識法およびDFT計算によって取り組んできた。 まず、我々は17O標識水を添加後のシグナル強度の変化を17O-NMRによって追跡し、水交換速度の算出を行った。その結果、Co-POM-Moの骨格を構成する酸素原子の水交換速度が0.10 h-1と算出され、水交換の影響は無視できるほど小さいということが明らかとなった。一方、Coに直接配位した酸素原子のシグナルは観測されず、酸素発生反応と競合して水交換反応が起こりうるという重要な結果を得た。 さらに、精密な同位体標識実験を行うために、我々はグローブボックスとGC-MSを組み合わせた測定系の構築にも取り組んだ。構築した測定系を用いて18O標識水による発生酸素の同位体標識実験を行い、速度論的解析によって見出されたi-ONA機構を支持する結果が得られた。現在、上記水交換速度の影響を踏まえたシミュレーション法の構築にも取り組んでおり、得られた結果と比較することでO-O結合形成機構の実験的実証が可能になると期待している。 さらにDFT計算を用いてO-O結合機構について詳細な解析を行った。実験値をベンチマークとして、酸化還元電位とpKaを算出することでWNAとi-ONAの2つの過程に関してエネルギーダイアグラムの作成を行った。その結果、i-ONA過程の中間種が熱力学的に生成しやすいという、実験結果を支持する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度、我々は、コバルトポリオキソメタレート錯体(Co-POM-Mo)によって触媒される酸素発生反応の律速段階であるO-O結合形成過程に関して、同位体標識法およびDFT計算による詳細な機構的研究を行ってきた。本年度は、精確な同位体標識実験を行うためにグローブボックス/GC-MSシステムを開発し、同システムを用いた同位体標識実験の結果を国内の学会で2件報告しており、本研究を期待通り進展させることができた。 我々が独自に開発したグローブボックス/GC-MSシステムを用いることで、窒素雰囲気下での実験・測定が可能となり精密な同位体標識実験を行うことができた。さらに同位体標識実験から分子内O-O結合形成機構(i-ONA)の進行を支持する結果が得られた。 さらにDFT計算を用いてO-O結合機構について詳細な解析を行うことで同位体標識実験の結果を支持する結果が得られた。 以上のように、本年度の研究進捗状況は、期待通りに進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、O-O結合形成機構の解明を目指した遷移状態(TS)計算、不安定反応中間体の観測を目的とした急速凍結分光法の開発、新規有機―無機ハイブリッド型WOC@POMの開発を目指す。Co-POMのO-O結合形成に関して、TS計算を用いた反応の解析を行う。既に同位体標識法により、分子間O-O結合形成が主反応として進行していることを明らかとしており、さらにTS計算によって得られる活性化自由エネルギーと速度論的解析で得られた値を比較することでその妥当性についても検証する予定である。また、競合する反応として考えられる分子内O-O結合形成機構についても同様にTS計算を行い、反応機構の妥当性について理論的に考察する。急速凍結分光法を用いて反応中間体の捕捉および観測を試みる。分析手法としては、ESR、ラマン分光法などを用いることにより、スピン状態や構造の変化について検討する。得られた分光学データは、DFT計算によって推定されるスペクトルとの比較も行い、その考察の妥当性についても検討する。仮に十分なデータが得られない場合は電気化学とESRを同時観測することにより反応中間体の同定も試みる。具体的には、JEOLのヘリックスコイル型電解セルを用い、定電位酸化法により反応中間体を発生させ、ESR測定を試みる。新規金属オキソクラスターの合成、構造決定、及び機能評価を推進する。Co-POMの機構的研究で得られた構造―活性相関に関する知見を活かして、新規有機―無機ハイブリッド型WOC@POMの開発に取り組む。電気化学測定を用い、新規WOC@POMの酸化還元特性および触媒能の評価を行う。酸素発生に対する触媒活性を示すものについては、[RuII(bpy)3]2+を光増感剤とし、Na2S2O8を犠牲酸化剤とした光酸素発生系を利用し、活性の評価を進める。測定には、現有の全自動ガス定量システムを用いる。
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