研究課題/領域番号 |
20J22206
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
多伊良 夏樹 九州大学, 理学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 酸素発生 / コバルト錯体 / ルテニウム錯体 / 同位体標識法 / モンテカルロ法 / GC-MS / ストップトフロー法 / 速度論的解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、POM型WOC(WOC@POM)の活性制御因子の解明を目的とし、最小分子量のWOC@POMであるCo-POM-Moの詳細な機構的研究に取り組んでいる。特に、酸素発生反応の律速過程であるO-O結合形成機構に着目し、従来の活性を上回る触媒開発を行うための設計指針を提示することを最終目標としている。そこで、本年度は、これまでに我々が見出した非対称分子内O-O結合形成機構(i-ONA)の実験的実証を同位体標識法およびモンテカルロ法を用いた同位体標識実験結果の解析によって取り組んできた。また、Co-POM-Moにおいて見出されたi-ONA過程が酸素発生触媒活性に及ぼす影響を明らかにすることを目的に、ストップトフロー法による複数の酸素発生触媒の活性評価・速度論的解析に取り組んできた。 前年度に得られた同位体標識実験の結果に関して詳細な解析を行うために、モンテカルロ法による実験値との比較を行った。本方法を用いることで、水交換反応が競合して起こる場合や別のO-O結合形成機構である水求核攻撃(WNA)機構の場合に予測される同位体比率を算出することができる。実際にシミュレーションの結果、i-ONA機構を経由した酸素発生反応と水交換反応が2:1の割合で進行する際に、実験値を最も良く再現できることが明らかとなった。 さらに、我々は最も高活性な分子性の酸素発生触媒として知られているRubda錯体の合成を行い、ストップトフロー法を用いてCo-POM-Moや二核のWOC@POMであるCo2-POM-Moとの活性および反応機構の比較を行った。実験の結果、Co-POM-MoはRubda錯体に匹敵する活性を示すことを明らかにし、低濃度領域においてはRubda錯体を上回る速度で反応が進行していることを明らかにした。さらに詳細な解析を行うために現在電極修飾法による両触媒の活性比較にも取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度、我々は、コバルトポリオキソメタレート錯体(Co-POM-Mo)によって触媒される酸素発生反応の律速段階であるO-O結合形成過程に関して、同位体標識法およびストップトフロー法による詳細な機構的研究を行ってきた。本年度は、モンテカルロ法を用いた同位体標識実験の詳細な解析および各種酸素発生触媒の合成およびCo-POM-Moとの比較検討を行った。以上の結果を国内の学会で2件報告しており、さらに上記内容をまとめて2報の学術論文を執筆している。 我々が開発したモンテカルロ法によるシミュレーションを行うことで、前年度までに明らかになった同位体標識実験の結果の詳細な解析が可能となった。さらに、本方法を用いることで、i-ONA機構を経由した酸素発生反応と水交換反応が2:1の割合で進行する際に、実験値を最も良く再現できることが明らかとなった。 さらに最も高活性な分子性触媒の一つであるRubda錯体とCo-POM-Moの活性・反応機構を比較することで、Co-POM-Moの高い活性およびi-ONA機構という特異な反応の重要性を強く支持するような結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、不安定反応中間体の観測を指向した電気化学ATR-IR法の開発および本手法を用いた機構解析、新規有機―無機ハイブリッド型WOC@POMの活性評価および機構の解明を目的とする。既に電気化学ATR-IR法を行う上での装置の購入や設計を進めており、本手法を用いてCo-POM-Moの不安定反応中間種として推定されるCoオキシル種やCoペルオキソ種の直接観測に取り組む。得られた分光学データは、DFT計算によって推定されるスペクトルとの比較も行い、その考察の妥当性についても検討する。仮に十分なデータが得られない場合は電気化学とUV-Visを同時観測することによる反応中間体の同定にも試みる。本手法にはBASのPtグリッド電極および石英セルを用いる予定であり、電気化学ATR-IR法とは異なるUV-Vis領域での中間種の同定が可能となる。また、新規有機―無機ハイブリッド型WOC@POMの機能評価及び機構研究を推進する。既に有機―無機ハイブリッド型WOC@POMの合成・同定を終えており、予備的な実験から酸素発生触媒の活性を有していることを明らかにしている。さらに、異なる配位子を持つ新規WOC@POMの合成および電気化学測定にも取り組み、酸化還元特性および触媒能の評価を行う。酸素発生に対する触媒活性を示すものについては、[RuII(bpy)3]2+を光増感剤とし、Na2S2O8を犠牲酸化剤とした光酸素発生系を利用し、活性の評価を進める。測定には、現有の全自動ガス定量システムを用いる。
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