研究課題/領域番号 |
20J22215
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
児島 佑樹 東京工業大学, 理学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 量子スピン系 / 三角格子反強磁性体 / 非弾性中性子散乱実験 |
研究実績の概要 |
Ba2CoTeO6の非弾性中性子散乱実験の解析によりいくつかの事項が明らかになった。大きな成果として、Ba2CoTeO6のスピン1/2三角格子反強磁性層由来の磁気励起スペクトラムにおいて複数のロトンライクミニマムや構造的な連続励起が現れることを確認した。これらの現象はスピン1/2三角格子反強磁性体Ba3CoSb2O9の磁気励起スペクトラムにも現れるが、半古典計算である線形スピン波理論では説明できないことから様々な理論が提唱され注目を集めている。今回の研究結果により、これらが物質固有の現象ではなくスピン1/2三角格子反強磁性体の一般的な性質であることを明らかになった。また、Ba2CoTeO6におけるスピン1/2三角格子層とスピン1/2ハニカム層の結合性について、層間の相互作用が小さいことが分散関係のフラット性から明らかになった。スピン1/2ハニカム層の磁気励起分析においては励起スペクトラムを線形スピン波理論に照らして解析し、特徴付ける磁気パラメータの推定を行なった。以上を論文にまとめ発表した。 Ba2La2CoTe2O12については塩化バリウムや塩化ナトリウムやその混合融液によるフラックス法の改良を試みたが、有効なサイズ向上を達成することは出来なかった。また、モリブデン酸カリウムや酸化ビスマスを用いたフラックス法も試みたが塩化ナトリウムよりも大きな単結晶は析出する方法は見出せなかった。 Ba2CoTeO6の類似物質であるBa2CuTeO6の非弾性中性子散乱実験を行うため、Ba2CuTeO6の塩化バリウムフラックス法を改良した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初想定していたBa2La2CoTe2O12単結晶の大型化は難しいことが分かった。一方でBa2CoTeO6の非弾性中性子散乱実験では当初想定していなかった成果が得られた。その結果、今後の実験において当初の目的を果たすための新たな方向性が明らかになり、進展が得られたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
Ba2CoTeO6の非弾性中性子散乱実験より、ロトンライクミニマムと構造的な連続励起はスピン1/2三角格子反強磁性体に特徴的な現象であることがわかった。これらを解析するために、2つの研究を考えている。1つ目として振幅モードの崩壊を扱う。近年、ロトンライクミニマムは振幅モードの崩壊が関わっているとの理論が提唱されているが、振幅モードの崩壊自体の理解が不十分である。振幅モードの崩壊は理論的に扱いやすいダイマー系などでも現れる。我々はBa2CuTeO6に注目し、非弾性中性子散乱実験を行いたい。2つ目としてBa3CoSb2O9の磁気励起スペクトラムの温度依存性である。構造的な連続励起は2つのマグノンによるものではないことが理論的に示されている。マグノンが転移点前後で影響を受けやすいことから、常磁性層における非弾性中性子散乱実験により、構造的な連続励起の特性を明らかにできると考えている。
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