スピン1/2三角格子反強磁性体(S=1/2 QTLAF)は量子スピン系の中でもシンプルなモデルとして数十年に渡って研究されてきた。S=1/2 QTLAFの候補物質としてBa3CoSb2O9やBa2CoTeO6などの化合物があり、実験的にも多くの示唆が得られている。これらの物質の磁気励起には線形スピン波理論とは異なる振る舞いが確認されており、理論的に解明する試みが近年盛んである。本研究では、S=1/2 QTLAFの磁気励起に特徴的な振る舞いである構造的な連続励起に注目し、Ba3CoSb2O9の非弾性中性子散乱実験から解明を試みた。 我々はBa3CoSb2O9の磁気励起の温度依存性をJ-PARC MLFのAMATERASを用いて測定した。Ba3CoSb2O9において構造的な連続励起は2.5-6 meVの高エネルギー領域で現れる励起である。長距離秩序の存在しない転移温度以上では単一マグノン励起の分散関係が消失することが確認できる。しかし、構造的な磁気励起は長距離秩序の存在しない転移温度以上においても観測され、その構造はほとんど保持されていることが確認された。このことは、先行研究で確認された構造的な連続励起について、その解釈に長距離秩序状態の前提を必要としないことを示唆する結果である。我々はこれらの結果から構造的な連続励起が短距離相関に由来した励起であると結論づけた。今後の展望として、S=1/2 QTLAFの磁気励起における構造的な連続励起の起源について、線形スピン波理論をはじめとした長距離秩序状態を前提とした理論ではなく、短距離相関に着目した理論による解明が期待される。
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