研究課題
固体における高次高調波発生(HHG)は、物質の電子構造を調査する新規手法として注目されている。本研究は、HHGと電子構造およびフェルミレベルとの関係解明を行い、HHGによる電子構造解明に必須となる知見を獲得することを目指す。このために、①バンド分散が鋭く変化する金属型単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と単層グラフェン、②広いバンドギャップを持つ二硫化モリブデン(MoS2)等のナノ材料に対し、電界効果デバイス構造を用いることでフェルミレベルを制御しつつ、HHG測定を行う。①金属型SWCNTと単層グラフェンは共に、線形分散と特異点のディラック点からなるディラック電子構造を持つ。特にグラフェンはこの電子構造からフェルミレベル制御によるHHGの増大が理論的に予想されているが、R2年度の実験結果はフェルミレベル制御に対して変化しない全く異なる振る舞いが確認されており、この背景解明が必要であった。R3年度は、理論家の協力のもと、数値計算による背景調査を行い、HHGのフェルミレベル依存性にとって使用するレーザー特性がフェルミレベル依存性を大きく変えうることを新たに発見した。そこで、検証が容易で、同様の電子構造を持つ金属型SWCNTのフェルミレベル依存性を用いて検証したところ、同様の傾向を確認することに成功した。②MoS2は広いバンドギャップを持つため、先行研究で判明したバンドギャップエネルギーより小さなHHGが増大するフェルミレベル依存性を多くの次数で観測できることが期待される。加えてその構造の非対称性から、新たに偶数次のHHGを観測することができ、奇数次とは異なるフェルミレベル依存性が期待される。この二つの面からHHGのフェルミレベル依存性の検証が求められている。R3年度は、実際に、MoS2をデバイス化し、実際にフェルミレベル依存性の変化を見ることに成功した。
3: やや遅れている
本研究は、固体におけるHHGと電子構造およびフェルミレベルとの関係解明を行い、HHG制御に向けた物質・デバイス設計指針を得ることを目標とする。R3年度は、①バンド分散が鋭く変化する金属型単層SWCNTと単層グラフェン、②広いバンドギャップを持つ二硫化モリブデン(MoS2)等のナノ材料に対し、電界効果デバイス構造によるフェルミレベル制御を行い、HHGの変化を調べた。①バンド分散が鋭く変化する試料:R2年度のこの試料に対する結果は、計画段階および他の理論予想と異なっていた。特にグラフェンのフェルミレベル制御に対しHHG強度がほぼ変化しない異常な振る舞いの背景理解が重要な課題だったため、当初の予定を変更し、R3年度は、その背景調査に重点を置いた。この結果、新たにレーザー特性が関係することを発見した。さらに、測定が容易な似た電子構造を持つ金属型SWCNTで検証を行い、理論とよく合う傾向を確認に成功した。このレーザーのフェルミレベル依存性への寄与の検証のために計画を変更したため、やや進捗が遅れているが、この理解はHHGと物性の関係解明を行う上で今後重要であり、HHGの理解と応用にとってより貢献しうる成果につながると考えている。②広いバンドギャップを持つ試料:R3年度は、当初の予定通り、HHG測定可能なMoS2のデバイス化を行い、HHGのフェルミレベル依存性の調査も行った。この際、偶数次のHHGのフェルミレベル依存性も観測することに成功した。こちらに関しては、おおむね順調に進展している。
今年度は、①と②のテーマに対して以下の研究を行う。①バンド分散が鋭く変化する試料:R3年度に得られたレーザー特性のフェルミレベル依存性への影響の検証を行う。きっかけとなったグラフェンは、検出感度の問題でレーザーの影響の検証が難しいが挑戦する。また、バンド形状により、このレーザー特性の影響の受けやすさが違う可能性があるため、鋭い分散を持つ材料と持たない材料での比較が重要である。よって、半導体のSWCNTを用いて同様の検証をし、電子構造とフェルミレベル、レーザー特性のHHGとの関係を明らかにする。②広いバンドギャップを持つ試料:R3年度の結果は、MoS2におけるHHGのフェルミレベル依存性を検出できたが、検出効率が低いため、偶数時などの変化の議論が難しかった。そこで今年度は、測定系と試料状態を改善することで検出効率を上げ、フェルミレベル依存性のより詳細な調査を行い、広いバンドの効果と偶数次の特殊性について調べる。加えて、MoS2よりも広いバンドギャップを持つ二硫化タングステン(WS2)でも検証を行い、MoS2と比較する。得られた結果に関しては、数値計算を用いつつ検証を行う。
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Scientific Reports
巻: 12 ページ: 101
10.1038/s41598-021-03911-7