研究課題/領域番号 |
20J22235
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
藤澤 宗太郎 北海道大学, 国際感染症学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | ワクモ / ワクチン |
研究実績の概要 |
本年度は当初の予定通り(1)-(3)の研究を行った。尚、各ワクチン抗原候補は特許申請を予定しているため、分子A、B、及びCと表記する。 (1) 申請書らが過去に行ったワクモのトランスクリプトーム解析の結果を基に、特に吸血状態のワクモにおいて発現量が高く、且つワクモの生命活動に重要な機能を持つと予測される分子を複数選抜した。各分子について組織別に遺伝子発現を解析した結果、ダニ類で血液の消化への関与が予想される分子A及びB、ならびに金属イオンの取り込みへの関与が予想される分子Cの三種類の抗原が中腸に発現していることを確認した。さらに分子Cは細胞膜上での発現が予測されたため、予想細胞外領域にエピトープタグを融合した組換えタンパク質を昆虫細胞上に発現させ、フローサイトメトリー法により細胞膜上での発現を確認した。 (2) 上記分子A及びCについて、ブレビバチルス菌を用いて組換えタンパク質を作製した。膜貫通タンパク質である分子Cについては細胞外領域の組換えタンパク質を作製した。分子Aについては予想される機能に基づいて酵素活性を測定し、作製した組換えタンパク質が予想された通りの機能を持つことが確認された。これらの組換えタンパク質を精製し、ニワトリに皮下注射にて接種して免疫血漿を得た。免疫血漿中の特異的抗体の産生及び抗体価の測定を行った。 (3) 分子A及びCに対する免疫血漿 (血漿A及びC)を人工的にワクモに吸血させ、抗ワクモ効果の検討を行った。いずれの免疫血漿も成ダニに対しては著明な殺ダニ効果を示さなかったが、血漿Aを吸血したワクモではコントロール血漿を吸血したワクモと比較して有意な産卵率の低下が認められた。さらに、血漿A、Cのいずれにおいても、コントロール血漿と比べて第一・第二若ダニに対して殺ダニ効果を示した。分子AとCについては現在特許申請の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画段階では抗原候補分子の選定においてより難航することが予想された。特に細胞膜上タンパク質についてはマダニ等においても先行研究が乏しく、中腸に発現する分子の同定には時間を要すると考えていた。実際に初期の検討段階では、選定した分子の発現強度自体は高いものの中腸に発現が認められない分子ばかりが検出されてしまう状況に直面した。しかしながら幸いなことに、比較的早い段階で中腸に発現する抗原候補分子を複数同定することが出来たため、その後の実験に前倒しで着手することが出来た。全体を通して「予期せぬ失敗」に見舞われることが無かったため、これまでは順調且つ円滑に研究を進めることができている。また本年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令によりおよそ1ヶ月間研究活動の停止を余儀なくされた。しかしその間に研究計画等を綿密に練り上げることが出来たため、復帰後に効率的に研究を進めることが出来た事も、結果的に当初の予定以上に進展することが出来た要因の一つであると考えている。加えて本年度は国内外の学術集会への参加や研究打合せのための出張等が全てキャンセルとなり、これまで以上に研究活動に集中して取り組む時間を確保することが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きより優れた抗ワクモワクチンの樹立を目指し、抗原候補分子の探索を行う。それらについて組換えタンパク質の作製や生理機能の評価、免疫血漿の作製や抗ワクモ効果の検討を実施する。また、上記分子Aについては組換えタンパク質をニワトリに免疫し、飼育ケージにワクモを放虫することで攻撃試験を行い、in vivoにおける抗ワクモ効果の検討を予定している。さらに分子Aについては臨床応用を想定し、ウイルスベクターを用いたワクチン開発の検討を予定している。具体的には、ニワトリに対して腫瘍を引き起こすマレック病ウイルスを用い、ウイルスゲノム中のがん遺伝子を分子Aの遺伝子に置換し、感染細胞において分子Aタンパク質を産生させる組換え生ウイルスワクチンの樹立を目指す。In vitroにおけるウイルス増殖能や分子Aタンパク質の産生能等を評価した後、組換えウイルスをニワトリに接種し、分子Aに対する抗体産生の誘導能及びマレック病ウイルス感染に対する防御効果等を実施する予定である。 またこれらに加え、樹立した抗ワクモワクチンの効果を臨床現場において評価する方法を確立するために、ニワトリにおけるワクモの吸血に対する応答の解析を実施する。申請者らが行った吸血ワクモのトランスクリプトーム解析において、ワクモ由来遺伝子以外にもニワトリ由来遺伝子が数多く検出された。これらはワクモに吸血されたニワトリの血液由来のものであると考えられることから、高度に発現している遺伝子の中にはワクモの吸血によって発現上昇したものが存在すると予想される。それらの分子についてワクモ汚染農場及び清浄農場由来のニワトリの抹消血における遺伝子発現や濃度を比較することにより、ワクモ汚染状況の指標となる因子を探索する予定である。
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