近年,コストの増大する大型構造物やインフラの管理,高精度・高効率な生産のためのスマートファクトリー,海洋や地殻調査などの学術研究等の領域で,高精度なセンシング技術はますます重要になってきている.そこで本研究では,高精度な歪みや温度センシングを目的として,光コムパルス干渉法とファイバエタロンを用いた新しいファイバセンサの開発に取り組んできた.これは,コム光のエタロン導入時に,エタロンと光コムの共振器長がハーモニックな関係になる場合,特徴的な干渉が得られる現象を利用するものである.これを用いて,ファイバ中に実装したエタロンにコム光を導入し,その繰り返し周波数を走査することで,エタロン絶対長を測定する.このエタロン長変化から,温度や歪みなどの情報を得ることができる.この手法では,数百 mmのエタロンに対して数ナノメートルオーダの従来法と比較して高い分解能が得られる.また,光コムの繰り返し周波数走査を利用することで,一般的に難しい高精度な波長計測を必要とせず,シンプルな測定系で実現可能である. 本研究ではこの手法を実現するための,多層膜コーティングされたファイバコネクタ端でファイバを挟み込む構造と二種のファイバによる分散補償を用いたファイバエタロンを開発し,この絶対長の測定を行った.このとき,測定手法から想定されるものと合致する数 nm程度の繰り返しが得られた.また,このファイバエタロンの温度応答と歪応答について試験し,良好な線形性が得られた.さらに,エタロン共振器長と光コム共振器長の比を大きくし測定精度を向上させるために,エルビウムドープファイバによる増幅機構を内蔵するファイバエタロンを提案及び開発し,その原理検証を行った. 以上により,光コムを用いた新しい測定原理に基づいた,シンプルで高精度なファイバセンシングシステムが実現できた.
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