研究課題/領域番号 |
20J22335
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高木 舜晟 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 個体ベースモデル / ウイルスダイナミクス / ヒトT細胞白血病ウイルス / 病態進行予測 / 数理生物 / がん進化 / 個体群動態 / クローン多様性 |
研究実績の概要 |
がんをはじめとする多くの疾患は、病態が進行するにつれて多階層の異なるデータが得られるため、その変化の過程として疾患を捉え病態進行を分析することが求められている。上記の問題を解決するためには、データを経時的変化を捉えることのできる手法が必要となる。そこで、多階層の細胞動態を統合した個体ベースモデル(ABM)を開発した。今回は、血液がんの一種である成人T細胞白血病(ATL)を対象にした。成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染が原因で発症する。また、HTLV-1は自らのゲノムを宿主(ヒト)のT細胞のDNAにプロウイルスとして組み込む。このプロウイルス組込部位は新規感染細胞ごとに固有であるため、感染細胞のIDとして利用できる。次世代シークエンスによる感染細胞IDの解析から、無症候のHTLV-1キャリアとATL患者では、感染細胞集団の多様性に違いがあることが分かった。この多様性を生じる機構を解明し病態進行を予測するために、感染細胞動態及びウイルス遺伝子の発現動態も考慮したモデルに拡張した。さらに、複数種のドライバー変異を実装することで、くすぶり型や急性型などのATLが発生する条件を明らかにし、白血病を形成するクローン及び感染細胞全体のドライバー変異の蓄積動態も可視化した。 また、上記のようなウイルス感染を組み込んだ数理モデルを利用することで、Epstein-Barrウイルス(EBV)のウイルス粒子が潜伏感染成立まで産生されないことを理論的に明らかにし、EBV感染の初期には"不完全なウイルス産生感染"という中間状態が存在することの実証に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
がんの病態進行予測に用いる個体ベースモデルの基本的な枠組みを完成させ、ドライバー変異も実装し、複数の病態を再現することに成功した。現在は構築したモデルを用いた病態進行の解析に取り掛かっており、研究は順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
本モデルを用い、引き続きHTLV-1感染者の病態進行の解析を行う。また、NGS解析により得られるウイルス組込部位のデータや免疫応答のデータとの比較解析を進められるよう、モデルの拡張・最適化を行う。
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