研究課題/領域番号 |
20J22348
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日下部 亮太 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | デジタルツイン / 地震シミュレーション / 大規模解析 |
研究実績の概要 |
本研究課題では,(1)地震応答解析の安定化,(2)GPUによる地震応答解析の高速化,(3)地盤構造物モデルの作成を行った.以下に各項目の詳細を記載する. (1)デジタルツインでは観測データなどから内部状態をリアルタイムで更新していくことが想定されている.その更新のたびに地震シミュレーションを実施し,地震リスクを再評価していく必要があるため,解析の安定性が重要である.そこで,非局所化理論によって,応力・ひずみの局在化を抑制することにより,解析の安定化を図る手法を開発した.開発手法ではほとんど解析コストを増やすことなく解析を安定化させることができ,従来手法では解析ができない超高分解能な地盤・都市モデルの地震シミュレーションを実現した. (2)昨年度から進めていたGPUによる液状化解析の高速化の研究をまとめ,査読付き国際ジャーナルの論文として発表した.GPUのアーキテクチャを考慮したアルゴリズムを採用し,低精度変数をCPU間の通信に使用した手法を開発した.開発手法では, CPUのみを使用した手法と比較して,大規模な液状化解析を11倍高速に実施することが可能になった.また,CPUとGPUを同時に使用することによるさらなる高速化の検討も行ったが,CPU上での計算が想定よりも遅く,全体としての計算速度が大幅に大きくなってしまうことが判明したため,このアプローチによる高速化は断念した. (3)開発手法の適用例として原子力発電所を対象とした地震応答解析のための地盤構造物モデルを作成した.CADデータをもとにイメージベースドモデリングの手法により,解体作業中の状態を考慮した原子力発電所の建屋モデルを作成した.分解能を変えた複数ケースのモデルを作成し,試解析により,問題なくモデルが作成できていることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,次の3つが計画されていた.(1)実務で使用されている地盤・材料構成則を地震応答解析の高性能計算手法に組み込む.(2)対象問題の性質に合わせた高性能計算手法を開発する.(3)地盤と構造物の解析モデルの生成手法を検討する.以下に記す通り,全項目とも計画通りに進展している. (1)本研究課題では,現在のところ液状化構成則に重点を置いて開発を行っている.しかし,単純に構成則を既存の高性能計算手法に導入した場合,デジタルツインのような高分解能な地盤構造物モデルの解析で解析が不安定になるという問題が発生することが判明した.デジタルツインの地震応答解析は安定性が求められるため,非局所化理論によって,ほとんど解析コストを増やすことなく解析を安定化させる手法を開発した.これにより,従来手法では解析ができない超高分解能な地盤・都市モデルの地震シミュレーションを実現した. (2)マルチフィジックスの解析に合わせた高性能計算手法としてGPUを使用した高速解析手法の開発を昨年度から実施してきた.使用する構成則の特性とGPUのアーキテクチャを考慮したアルゴリズムを採用し,低精度変数をCPU間の通信に使用した手法を開発した.CPUとGPUを同時使用によるさらなる高速化の検討も行ったが,こちらはかえって性能が悪化してしまうという結果に終わった.とはいえ,GPUを使用した開発手法より,CPUのみの従来手法と比較して,11倍の高速化が実現しており,十分な成果が挙げられている. (3)本研究課題で開発しているデジタルツインのための大規模解析手法の適用例として予定している原子力発電所の解析に使用する地盤構造物モデルの作成を行った.CADデータをもとにイメージベースドモデリングの手法により,解体作業中の状態を考慮した原子力発電所の建屋モデルを作成した.試解析により,問題なく作成されていることも確認済みである.
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては,(1)原子力発電所周辺の地盤構造物モデルの作成,(2)(1)で作成したモデルを使用した地震応答解析の実施を予定している. (1)昨年度は,原子力発電所の建屋モデルを作成した.今年度は,その建屋周辺の地盤についてもモデル化を行う.地盤と構造物からなる複雑なモデルとなるため,今まで使用してきたモデル生成方法では完全には対応できず,対応策の開発が必要となる可能性がある.対象とする領域には高分解能なモデル化が必要になりうる構造物と比較的低分解能なモデル化が許容される地盤が共存し,かつ,領域サイズが広大である.領域を部分ごとに異なる分解能でモデル化でき,大規模なデータを取り扱えるように,モデル生成方法を高度化していく予定である. (2)昨年度までに開発してきた有限要素法に基づく地震応答解析手法により,(1)で作成したモデルを使った地震応答解析を行う.このモデルは,従来の地震応答解析で使用されているモデルよりも問題の性質が悪い可能性があり,その場合には,問題の性質に合わせた高性能計算手法を解析手法に組み込むことを検討している.また,他の解析手法による解析結果との比較や,複数のシナリオでの解析などを予定している.これらを通して,本研究課題での開発手法によって,デジタルツインの地震応答解析がより高速に,より大規模に実施できるようになることを示す予定である.
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