研究課題/領域番号 |
20J22352
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
趙 浩衍 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 近世ベトナム / 家譜 / 科挙 / 黎朝 / 阮朝 / 漢喃研究院 / ゾンホ / 風水 |
研究実績の概要 |
本年度には、漢喃研究院や他公開されているベトナムの家譜の目録を整理し、ホームページ(https://www.wollam-ssam.com/)に公開する一方、韓国の学術誌『大東文化研究』に紹介した。また日本東洋文庫に所蔵する家譜も漢喃研究院の請求記号と合わせて整理し、公開した。次に、ベトナム黎朝の復興(ハノイ奪還1592)以降、行われた科挙試験から最後の科挙試験(1787)までの会試合格者の姓名と出身地を整理し、阮朝においても一応1847年までを『国朝郷科録』を利用し挙人にまで整理した。この情報も雑誌に掲載するとともに、ホームページに掲載する計画である。これらの作業は、本格的な研究のための基礎作業に該当する。また日本東南アジア学会(2回、オンライン、2020年4月、2020年12月)で発表する一方、韓国学界に論文を掲載し、韓国のベトナム史研究者と交流できる環境を築いている。 韓国学界に投稿した論文は、修士論文の内容に日・越の先行研究の紹介及び新出史料の分析を加えたものであり、次の内容となっている。今回嘉隆・明命年間に編纂された家譜を分析することで、この時期の家譜は(ベトナム家譜の一般的な特徴として位置づけられた結果と違い)世代深度が深く、祭祀結合が強いことが分かった。これはそれらの家譜を編纂した宗族が主に17~18世紀に村落有力層として成長し、すでに1回以上系譜を表す記録を残したためであったと結論づけた。次には、一つの宗族を選びだした事例研究の投稿を準備している。 また国内査読誌に投稿し審査を待っているが、その内容は主に家譜の内容に基づいて近世ベトナム風水思想を分析したものである。第一に、「北客」代わりにベトナム仁の風水師が現れること、第二に、宗族の内歴と風水逸話・理論が結合していること、第三に、妻や娘のような女性祖先に対しても、その恩徳を得られるとされていることを述べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、研究テーマ「近世ベトナムにおける「東アジア小農社会論」の検討」を完成させるための基礎研究として、ベトナム漢喃研究院と日本東洋文庫所蔵の家譜目録を整理する一方、黎・阮朝の科挙合格者の情報(姓名・出身地・合格年度)を改めて整理する予定であった。だがコロナという状況の中で、予定した現地調査はできず、文献資料に基づいて研究を進めた。 第一に、ベトナム漢喃研究院と日本東洋文庫所蔵の家譜目録を整理し、特に阮朝嘉隆・明命年間に編纂された家譜の特徴を分析した結果を、韓国雑誌に投稿し掲載される研究成果を得た((韓国語)「阮朝嘉隆・明命年間(1802~1840)編纂の家譜に関する研究」、『大東文化研究』113、pp. 542-596)。またこの目録はホームページ(https://www.wollam-ssam.com)を通じて一般公開した。 第二に、黎・阮朝の科挙合格者の目録を整理し、その中で対象を抜き出して研究を進めた。特にハノイ付近の段族・呉族・阮族など一部の宗族の家譜を入手し、分析した結果を「19世期中葉ベトナムの家譜における祖先中心と子孫中心の系譜観念の併存とその意味」という題目で東南アジア学会において報告した(東南アジア学会関西例会、オンライン、2020年4月、東南アジ第102回研究大会、2020年12月)。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に作成した漢喃研究院(と東洋文庫)の家譜目録、そして黎朝の会試合格者目録・阮朝の会試・郷試合格者目録に基づいて、研究対象を絞り、宗族(ゾンホ)の形成と発展、土地所有と徴税、女性の位置などを考察する。特に阮朝郷試合格者目録を完成して公開する。主に史料状況から村落を選び、その地域の家譜を収集し構成員の名前を析出する。その後、『漢喃文刻拓本総集』の碑文を用いて、家譜史料の内容を裏付ける一方、阮朝地簿の土地所有者目録と宗族構成員の名前を対照する。 一方、韓国のベトナム関連の資料を収集し検証する。特に成均館大学所蔵の家譜は漢喃研究院の史料を原本にしながらも、落丁や錯簡が存在する可能性もあるため、これを確認し正しい情報を提供できるようにする。また朝鮮時代のベトナムに関する史料を集め、今まで日韓の学界において互いに共有できなかった諸問題を紹介し、史料と研究について紹介する。
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