研究課題/領域番号 |
20J22352
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
趙 浩衍 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 近世ベトナム / 家譜 / 親族意識 / 漂流民 / 済州島 / 安南 / 風水思想 / 漢喃研究院 |
研究実績の概要 |
本年度は、韓国学界に研究成果を紹介する一方、韓国における史料調査から得られた内容を日本学界に紹介した。 まず、17世紀における済州島民安南漂流に関する史料と日韓越の先行研究を総合した。先行研究では、1687年済州島民が安南に漂着した際、安南国官員から聞いた〈安南太子殺害譚〉は「事実」であるという前提の元に議論が進められてきた。しかし漂流事件に関する諸史料を検討した結果、〈安南太子殺害譚〉を取り上げている史料の信憑性が低いことが明らかになった。すなわち〈安南太子殺害譚〉が当時朝鮮半島で流布されていた〈〇〇王子殺害譚〉の一種であることがわかった。 次に、修士論文をブラッシュアップし韓国学界に投稿した。「17~19世紀北部ベトナム右清威社段族の出世戦略」(『崇実史学』47, pp. 331-360)は、段氏一族の家譜(=族譜)である『段族譜』の内容と18世紀の碑文史料、阮朝地簿(=土地台帳)を組み合わせて、段氏一族の出世戦略を考察した論文である。17世紀族人の中に立身頭として武人が現れ、18世紀には鄭王府の宦官や命婦、買官を通じて村落有力層となった。18世紀後半から漢文教養に関心を持つ人々が登場し、阮朝になると初めて挙人(郷試合格者)を輩出した。彼らの出世戦略が当時の政治的状況と対応していることがわかる。「19世紀ベトナム家譜の両系的親族意識に関する一考」(『ベトナム研究』19(2), pp. 255-285)は、父系血縁集団形成と発展の副産物である家譜に現れる両系(=双系)的意識に注目した論文である。『段族譜』の編纂者は挙人であり、族的結合のため祠堂を立てたり、家譜を編纂したりしていたが、「個人」としては外族や妻家を重視していた。以上の内容を家譜の形式や内容から論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度にも引き続きコロナ禍という状況により、予定した現地調査はできなかった。そのため、各国の研究成果を紹介し、研究者間の交流を深める方法で研究を進めた。 第一に、漂流民に関する内容を大阪大学文学研究科若手研究者フォーラム(「1611年済州島における殺害事件の再検討 : 日越関係史のまなざしから」、オンライン、9月6日)、朝鮮学会第72回大会(「1687年済州島民の安南漂流事件における〈安南太子殺害譚〉の再考」、オンライン、10月3日)、韓国の第11回全国海洋文化学者大会(「同上」、オンライン、11月26日)で発表し、朝鮮学会に投稿している。 第二に、阮朝郷試合格者の目録を作る作業については、現在嘉隆・明命年間の目録が完成した。不完全であるが、この目録を元にいくつかの村落をリストアップして史料状況を確認している。 第三に、『漢喃文刻拓本総集』の碑文と家譜史料の内容を組み合わせ、研究を進めている。その内容は,「近世ベトナムの家族・親族と「儒教化」―女性の寄進とその戦略を考え直す―」(科研「東アジア各国の「姓・生・性」の変容の比較史的研究-「東アジアの奇跡」の裏側で」、2月11日)に一部紹介したが、ベトナム現地に行き直接家譜を確認する必要性が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針は、博士論文予備論に向けて学会発表を行い、論文を投稿することである。近世ベトナムにおける、女性による寄進を碑文史料と家譜史料を合わせて再検討し、東アジア諸国と比較する作業を行う。また、現地調査としてベトナムに渡航し、関連する村を調査して史料を入手し、ベトナム研究者たちと交流を行う。 今後の予定としては、5月21日国際東方学者会議で「近世ベトナムの家族・親族と「儒教化」―」を発表し、中国史・韓国史・日本史の研究者たちとの交流を計画している。また6月17日、韓国で開催される女性史学会では、「近世ベトナム女性の喜捨活動とその意味(仮称)」を発表し、韓国女性史の研究方法やその観点を取り入れるべく韓国の研究者たちと交流を行う。そして、11月に開催されるAsian Association of World Historians (AAWH)では、近世ベトナム女性の寄進碑文について分析した内容を発表する。 碑文の分析内容は訳註を作り投稿する。 韓国やベトナムの学会においては、日本の学会で議論されている研究課題や自身の研究成果について韓国語や英語(あるいはベトナム語)で発表する。
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