研究課題/領域番号 |
20J22355
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
山口 章浩 神戸大学, 国際協力研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 国際人道法 / 武力紛争法 / ジュネーヴ諸条約共通第1条 / 確保する義務 / 国際責任 / 国際法上の共犯 |
研究実績の概要 |
今日、内戦時における国際人道法・国際人権法の適用は一般的に認められ、その義務の拡大が論じられる一方で、内戦の紛争当事者である武装集団に課せられる義務の違反の法的帰結については、構成員個人の刑事責任を別として、十分に明らかにされてこなかった。初年度はまず先行研究の分析から、国際法が国家を基盤とする構築物であるがゆえ、非国家主体たる武装集団の責任を追求するには制度上の課題があることを明らかにした。そこで、この課題を乗り越えるための方策として、武装集団への直接の責任追及とは別に、武力紛争当事者の行為に関連して生じる第三国の責任に注目した。武力紛争当事者の行為に関連して生じる第三国の責任を導く法的根拠として、主に次の二つの法規範が援用される。第一に、武力紛争当事者の遵守を「確保する」第三国の義務であり、1949年のジュネーヴ諸条約共通第1条はこの義務を締約国に課していると主張される。しかし、この解釈をめぐっては、長年の論争が存在しており、今日においても同論争は収束を見ない。そこで、ジュネーヴ諸条約共通第1条の解釈に関する学説および実行の分析を行い、武力紛争当事者の遵守を確保する義務を第三国が負うとの主張は実証的な根拠を欠くとの暫定的な結論を得た。 第二に、国家責任条文第16条に表れる、他国の違反を援助することから生じる責任(国際法上の共犯責任とも称される)であり、これは慣習法として成立していると主張される。しかし同概念は、その国際法上の位置づけ、要件、適用の射程に議論がある。そこで、研究計画の2年目は国際法上の共犯責任の調査を進め、武力紛争当事者の行為に関連して生じる第三国の責任の法枠組みの実像を明らかにする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
武装集団の義務違反から生じる法的帰結を扱う邦語の研究は少ない一方、海外においてはいくつかの研究があるため、初年度の前半は先行研究の収集と分析を行い、得られた理解から、武力紛争当事者の行為に関連して生じる第三国の責任の法枠組みを明らかにすることとした。この成果をもとに、法枠組みが提起する理論的・実践的課題に関する報告を行い、他の国際法研究者から有益な示唆を得た。初年度の後半は、第三国が武力紛争当事者による条約の尊重を「確保する」義務を負うとの主張をめぐる論争を検討した。先行研究の分析から、共通第1条の解釈をめぐる学説において論点の不一致があると明らかになった。そこで議論を再整理し、詳細に実行を分析することで、武力紛争当事者の遵守を確保する義務を第三国が負うとの主張は実証的な根拠に基づかず、なお立法論に留まるとの暫定的な結論を得た。初年度内にこの研究成果を公表するには至らなかったが、論考として近く公表する予定である。以上より、始期において計画を若干修正したものの、全般的に研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の2年目となる2021年度は、武力紛争当事者の遵守を確保する義務を第三国が負うとの主張について、初年度に得られた暫定的な結論を補完するため、実行の分析を継続すると共に、国際法上の共犯責任に関する実行および文献の収集と分析に進む。 前者については論考として公表する作業を現在進めている。後者についても、得られた研究成果をもとに学会報告等を行い、論考として公表する作業を進める。
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