研究課題
本研究は,インド洋の深海堆積物の全岩化学組成分析,および多元素同位体比分析(炭素,酸素,オスミウム,バリウムなど)を通じ,新生代古第三紀に発生した複数の温暖化イベント(Eocene Hyperthermals)において,地球上における物質循環システムがどのような応答をしたのかを解明することを目的としている.今年度は炭素・酸素・オスミウム・バリウム同位体分析と全岩化学組成の統計解析を中心に研究を実施した.令和3年度上半期は,昨年度取得したインド洋Exmouth Plateauの深海堆積物コア(ODP Site 762C)の全岩化学組成データに対する多変量統計解析を行い堆積物の起源成分を明らかにし,それらが古第三紀始新世の温暖化イベントに伴いどのような変動を遂げたかを議論した.この研究成果は「令和3年度 高知大学海洋コア総合研究センター 共同利用・共同研究成果発表会」にて報告し,学生最優秀発表賞を受賞した.さらに,Site 762Cの試料の炭素・酸素同位体分析および炭酸塩濃度分析を高知大学海洋コア総合研究センターにおいて実施した.令和3年度下半期はODP Site 762CとKergueren Plateauの深海堆積物試料(ODP Site 738)のオスミウム同位体分析を千葉工業大学次世代海洋資源研究センターにて実施し,全122試料の分析を完了した.これらの分析結果は解析の上,成果を2022年度の日本地球惑星科学連合大会にて学会発表予定である.さらに,ODP Site 762Cの試料については,始新世の温暖化イベントに伴う生物生産性の変動を解析を目的としてバリウム同位体分析に着手し,海洋研究開発機構にて作業を実施中である.コロナ禍の影響により,分析スケジュールの遅延が発生したものの,4月中にはデータを取得できる見込みである.
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り,令和3年度中にODP Site 762Cコア試料およびSite738Cコア試料のオスミウム同位体比,炭素・酸素同位体比のデータセットを取得することができた.これに加え,生物生産性の評価を図るためバリウム同位体分析にも着手したが,これについては新型コロナウイルスの感染拡大の影響によりスケジュールが遅延し,当該年度中に分析データの取得には至らなかった.しかしながら,令和4年4月中にはデータの取得が完了する見込みであり,概ね順調に分析作業が進行している.また,データ解析にあたっては,多変量統計解析を用いた全岩化学組成の解析を完了させるなど,考察のフェイズに軸足を移しつつあり,当初の目標通りの進捗であるといえる.
バリウム同位体分析のデータを取得し次第,直ちに同位体比データの解析に移る.これまでの分析で得られた同位体比データを用いて,始新世における海洋の物質循環を議論する.このとき,マスバランスシミュレーションを用いた定量的な議論を展開する予定であるが,過去の研究で使用したOsのマスバランスモデルが存在するため,これを適切に修正のうえ利用し,考察に用いることで研究の効率的な進捗を図る.
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件) 備考 (2件)
Ore Geology Reviews
巻: 142 ページ: 104683~104683
10.1016/J.OREGEOREV.2021.104683
https://kato-nakamura-yasukawa-lab.jp/
https://www.researchgate.net/profile/Yusuke-Kuwahara-2