本研究の目的は、平安時代に編纂された古辞書である『類聚名義抄』の編者が、漢字音をどのように捉えていたかを明らかにすることである。『類聚名義抄』は、原撰本をもとに改編本が編纂されたとされる。出典、原撰本、改編本の三者の記述を比較すること、『新撰字鏡』、『倭名類聚抄』などの同時代の文献を用いて『類聚名義抄』の記述を相対化することにより、以上の目的を明らかにする。 本年度はまず、『新撰字鏡』の諸本系統についての研究を進めた。『新撰字鏡』は平安時代に編纂された現存最古の「和訓を含む辞書」として知られ、天治本と抄録本に大別される。『新撰字鏡』における仮名の異同と改変に着目し、全体として天治本が抄録本祖本よりも古い表記を多く残すこと、天治本は巻二・十二(A群)、巻四~八・十(B群)に大別され、A群はB群よりも仮名の改変が多く、新しい表記を多く残すことを明らかにした。以上の研究成果を、論文「『新撰字鏡』天治本と抄録本祖本の先後関係について―仮名の異同と改変から―」(『訓点語と訓点資料』第150輯)に発表した。同論文は『新撰字鏡』の諸本系統研究を進展させることによって、『新撰字鏡』に続く漢和辞書である『類聚名義抄』の諸本系統を考える上でも意義のあるものとなった。 次に、『類聚名義抄』の漢音注についての研究を進めた。改編本『類聚名義抄』は同音字注を増加させており、改編本の編者が辞書を日本化していると考えられることを指摘した。令和4年度京都大学国文学会(2022年11月)において、研究成果をまとめて口頭発表を行った。同発表により、前年度までの『類聚名義抄』の呉音注(和音注)の研究と合わせて、本研究を進展させることができた。
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