研究課題/領域番号 |
20J22451
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
佐藤 拓哉 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 窒素固定 / 希釈培養法 / nifH / アンプリコンシーケンシング |
研究実績の概要 |
①白鳳丸KH-19-06東部南太平洋航海の試料解析:窒素固定に関する知見が不足する東部南太平洋にて採取した試料の分析を行った。当該航海では10測点で窒素固定活性、窒素固定生物群集解析のための実験を実施していた。同位体分析の結果、窒素固定活性は観測線全体で低い(< 1.08 nM N d-1)ことが明らかになった。さらに、定量PCR法の結果、当該海域では一般的な亜熱帯性窒素固定生物は検出されなかった。これらのことから、調査海域では他の亜熱帯海域とは異なる窒素固定生物群集により窒素固定が行われていることが示唆された。東部南太平洋は低鉄濃度である事が知られており、鉄濃度をはじめとする独自の環境条件が群集形成に起因していると考えられる。新年度では、nifHアンプリコンシーケンシング解析により窒素固定生物を網羅的に検出し、環境条件との関係を考察することで当該海域の窒素固定生物動態についての知見が深化すると期待される。 ②白鳳丸KH-20-09黒潮域航海でのフィールド調査:窒素固定生物の現存量変動を明らかにすることを目的とし、黒潮域調査航海に参加した。黒潮域13測点で培養実験を行い窒素固定生物の活性、現存量、成長率、死亡率を見積もる為の試料を得た。現在までに、窒素固定活性を測定するための同位体分析が完了しており、当該海域では窒素固定が基礎生産の最大20%を担う重要な窒素源であることが分かった。現在、窒素固定生物の分布を明らかにするために定量PCR法を実施中である。今後、船上希釈培養実験より得た遺伝子サンプルに対して定量PCR法を行うことで、窒素固定生物の成長率、死亡率を明らかにする予定である。これらの結果を統合することで、窒素固定生物の分布を規定する要因や生態学的な重要性が明らかになると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標は、大きく次の2つであった、1.窒素固定生物の生態学的役割を解明するための試料を得ること、2.本年度および昨年度に採取した試料を分析することで窒素固定生物の分布要因を考察すること。 1.については、当初予定されていた東部インド洋航海がCOVID-19流行により中止となったものの、代替航海として黒潮域調査航海に参加し13測点で試料を得ることがきた。これらの試料は窒素固定生物の環境中での成長率、死亡率推定の為の試料であり、これまで明らかになっていない窒素固定生物の生態学的特性を解明するための重要な試料である。結果として予定以上の試料数を採取することができ、1.については期待以上といえる。 一方で、2.については、昨年度に参加した東部南太平洋および本年度の黒潮航海の試料分析を進めているものの、予定していたnifHアンプリコンシーケンシング解析までは完了することができなかった。原因として、COVID-19流行による研究中断があげられるが、現在は研究室利用がほぼ現状復帰している為、令和3年度は1.で得た試料も併せて迅速に解析し、成果として公表することが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
初年度のサンプリングにより窒素固定生物の環境中での成長率・死亡率を推定するための試料を黒潮域広域で得ることができた。次年度の目標は、まずこれらのサンプルを分析し、当該海域の窒素固定動態を詳細に記述することとする。予定されている分析項目はこれまで申請者が扱ってきた機器を用いる分子生物学的実験が主となるため、迅速に完了させて成果を学会発表及び国際誌として公表していく予定である。並行して、二年目以降は黒潮域の窒素固定生物動態の季節的変動を捉えることを目標とし新たなサンプル取得も予定している。サンプリングは東経138度側線を調査する蒼鷹丸にて行う予定であり、春夏秋冬の調査を行い、初年度のデータと合わせて時空間的な窒素固定生物動態を明らかにすることができると期待される。また、サンプル分析中に興味深い結果や仮説が浮上した場合それらを検証するための実験を随時行う。COVID-19流行により研究活動が制限された場合(予定される航海の中止等)は、実験室での培養株を用いた実験、あるいはこれまでのデータの論文化に集中していく予定である。
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