研究課題/領域番号 |
20J22464
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
六車 宜央 立命館大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | 内因性低分子代謝物 / 網羅的メタボロミクス / LC-MS/MS / 誘導体化法 |
研究実績の概要 |
認知症など重度の老年期神経疾患を根治させることは極めて困難であるが、簡単な検査で、早期の認知症や老年期リスクファクターを評価できれば、いち早く適切な薬物治療や予防対策を実施できる。そこで老年期神経疾患の進行とパラレルに増減する体内の生化学的指標(バイオマーカー)が精力的に探索されているが、現在報告されている有効なマーカーは数少ない。本研究は、400種類以上の内因性化合物を標的として、誘導体化LC-MS/MS測定法に基づく網羅的なメタボロミクスとAIを用いた深層学習を組み合わせ、健常者における認知症の発症リスク評価を実現することを目的としている。 2020年度の研究では、目的を達成する上で不可欠となる誘導体化試薬の開発に注力した。具体的には、カルボン酸・アミン標的試薬およびその重水素置換による安定同位体標識試薬の開発が完了した。なお、これらの合成品に関しては、分取LCを利用した精製を実施し、高純度な試薬を獲得できた。 続く研究では、合成した試薬とカルボン酸・アミンを反応させ、各種代謝物における最適なMS/MS条件を検討した。衝突誘起解離スペクトルでは、誘導体化試薬由来のプロダクトイオンが検出された。また現在、402種のMS/MS条件の検討が完了しており、MRMモードを用いたLC分離条件を検討している段階である。 具体的な応用例として、内因性胆汁酸を標的とした血清・胆汁メタボロミクスを実施している。15分以内に11種の胆汁酸を分析でき、また重水素標識体を内標準物質として作成した検量線は良好な直線性が得られた。さらに添加回収試験では,良好な回収率が得られており、胆汁や血清中に含まれる微量な胆汁酸を高精度に定量分析することが可能であった。以上より、本分析法は様々な生体試料を分析可能であり、今後の網羅的メタボロミクスの開発への有用性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス等の影響により、研究活動が大きく制限され、全体的に研究の進展に遅れが生じている。本年度は当初、「誘導体化試薬の合成」、「アミン・カルボン酸の網羅的な測定法の開発」、「様々なヒト試料の前処理検討」を計画していたが、学外との検体に関する打ち合わせや共同研究先である病院の検体収集などにも制限があったため、ヒト試料の前処理検討が完了していない。それでもなお、各アミン・カルボン酸標的誘導体化試薬の開発および網羅的な測定法はほぼ完了することが出来た。さらに、分析対象とする化合物は少数であるが、ヒト試料(胆汁、血清)における胆汁酸分析に利用可能であった。このことから、提唱したメタボロミクスの方法論が生体試料分析に応用可能であることを証明し、今後の網羅的な代謝物分析における有用な方法を開発できたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、開発した一連の誘導体化試薬および最適化した各代謝物のMS/MS条件を用いて、最適なLC分離条件(カラムや移動相、グラジエント条件など)を検討した後、実際に実試料分析に応用させ、バイオマーカー探索を実施する。その際に、脳組織からの抽出法(粉砕、溶媒など)や脳脊髄液および血液の前処理法(除タンパク処理など)も検討する。加えて、多くの成分ピークが検出されるように、濃縮度や試料必要量も決定し、前処理法が網羅的解析に適しているか、なども検討する。並行して、開発した試薬の補てん的なデータ(純度や最適反応条件など)も順次検討していく。 疾患の対象として、認知症に着目して研究を進めていくことを予定している。認知症に関する代謝物挙動は未知な部分が多く、我々が実施する網羅的なメタボロミクス研究により疾患特有の生体内変化を捉えることで、認知症の病態解明に繋がることを期待している。具体的には、脳組織や脳脊髄液などの中枢系試料、および血液などの末梢系試料を分析し、バイオマーカー候補と成り得る代謝物・代謝経路を特定する予定である。
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