研究課題/領域番号 |
20J22529
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
青田 伊莉安 慶應義塾大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | カラス / 優劣関係 |
研究実績の概要 |
本研究の目的はハシブトガラスを離合集散型社会のモデルとし,集団の形成・維持メカニズムを解明することである.集団飼育下のハシブトガラスは攻撃交渉による直線的な順位や,羽繕い交渉による宥和関係を形成することが報告されている.群れ内で生じる各2個体間の攻撃交渉に積極的に参与し,中心的役割を持つのは第1位個体であることから,1位個体の存在が集団の構造に与える影響を検討した. 影響を検討するために、個体の自発的な攻撃交渉及び音声行動の観察記録を行い、個体の除去操作前と除去操作後で比較した。除去操作では、群れから視覚的に遮断された個別ケージに1位個体を丸一日隔離し、残された同群の個体間交渉及び音声を朝昼夕の合計3時間録画記録した。コントロールとして、中位個体の除去も行った。結果、1位個体の除去操作によって、操作を行った2群れの攻撃交渉パターンには変化が見られなかったものの、連続コール音の発声回数が増加した。連続コール音を発するのは2位,3位個体であった。これらの個体は必ずしも1位個体と宥和関係にある個体ではなかった。これらの現象は中位個体の除去操作では見られなかったことから、1位個体の視覚的な不在が変化をもたらしていると考えられる。除去操作の際、中の生理状態の変化については現在作業中である。 本年度の研究成果は、日本動物心理学会第80回大会にて発表し、フィードバックを受けた。また追加の解析を行い、DARS-SWARM2021にて発表予定である(2020年3月に採択)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究成果について、計画の進展はおおむね順調に進展している。初年度に計画していた攻撃交渉に着目した除去実験は2群れで完了した。結果、攻撃交渉の中心個体である 1位個体の除去操作によって1位個体の除去操作でのみ群れの下位個体の連続コール回数が増加することを確認した。除去操作が発声に影響があった一方で、攻撃交渉には影響がみられなかった。このことから音声を優位シグナルとして利用している可能性が示唆された。糞サンプルによるコルチコステロンの計測系の立ち上げに関しては完了していないが,糞サンプルの採取と機材の購入,用意が完了し,おおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は行動レベルでの変化の背景を生理状態にもたらす変化を検討する必要がある。コルチコステロンに加えて、テストステロンの計測系の立ち上げを行う。また除去実験を引き続き行う。環境の変化に対して、発声は急性的に変化させるのにかかわらず攻撃交渉に変化が見られないのは、接触を伴い怪我のコストがかかる攻撃交渉の代替として音声を利用しているからだと考えられる。しかし、実験回数が各条件3回と少ないことに加えて隔離操作の時間及びサンプリングの時間が短かったことから、新しく群れを導入し、追加実験を行う予定である。
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