研究実績の概要 |
本年度の研究成果は以下の2点である: 1)対戦中の個体の行動や生理レベルに傍観者の存在が与える影響の検討.2個体の攻撃交渉パターンがいかにして順位構造を生み出すのかはいまだ明らかになっていない.集団生活では,2個体が交渉する場にさらに別の個体が居合わせる状況が想定されるが,これまでの研究では2個体の対面実験がほとんどだったため,傍観者の順位が対面中の個体の行動や生理反応に及ぼす影響についてはほとんど調べられていない。そこで1位オスまたは未知個体を2位個体にマジックミラーを介して視覚呈示し,その直後に2位個体と3位個体を対面させる実験を行った.その結果,1位個体呈示条件では未知個体呈示条件よりも多くの2位個体の攻撃行動が見られた.2位個体の心拍については,個体呈示前後で比較したところ,心拍数は両方の条件で呈示後に減少した。これらの結果から傍観者の属性が対面個体の行動に影響を及ぼす可能性が示唆された.一方で,1位個体条件において2位個体の攻撃行動が依然として生じたことから,3個体レベルでは2者間で見られる劣位個体の攻撃行動の抑制が生じず,異なる交渉パターンをみせる可能性が示唆された.2) 鳥類の唾液中に含まれるコルチコステロン(CORT)の計測方法を確立.唾液は血液の代替として哺乳類のグルココルチコイド計測に広く利用されているが,鳥類で利用された例はこれまでない.カラスにACTHアナログを投与後およそ10分後には血中及び唾液中CORT濃度が上昇し,ピークへの到達は唾液の方が遅くACTH上昇から40分後に見られた。閉所への隔離ストレスによる唾液中CORTの上昇は隔離開始からおよそ20分後に見られたことから,ストレス関連事象については発生後20分以降に測定可能であると考えられる。この結果は学術論文雑誌に発表した(Aota, Yatsuda & Izawa, 2023).
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