研究課題/領域番号 |
20J22559
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
難波 貴志 北海道大学, 大学院獣医学院, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2023-03-31
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キーワード | IL-36 / 炎症性サイトカイン / 腎臓 / 慢性腎臓病 / 骨ミネラル代謝異常 / 自己免疫疾患 |
研究実績の概要 |
ヒトと伴侶動物の高齢化進行に伴い、両者の慢性腎臓病(CKD)症例数が増加している。また、CKDに伴う骨ミネラル代謝異常(MBD)の対策も重要視されている。本研究ではCKD-MBD病態形成因子として炎症性サイトカインの一群、Interleukin-36(IL-36)群に着目し、その機能解明を主題としている。IL-36群は、作動分子群(IL-36α, β, γ)と拮抗分子群(IL-36Ra, IL-38)から成り、全ての分子はIL-36受容体(IL-36R)に結合する。これまでに、IL-36群の腎臓内発現バランスは自己免疫性腎炎で変化することを報告した。今年度は、CRISPR/Cas9システムを用いてIL-36R欠損マウスを作出・解析し、本腎炎におけるIL-36Rシグナルの役割を考察した。 自己免疫性腎炎モデルMRL/MpJ-Faslpr/lpr(lpr)を遺伝的背景としたIL-36R-KO群とその野生型(WT)群の雌雄6ヶ月齢を用いた。自己免疫異常指標と腎機能指標において、雌雄共に両群はほぼ同値を示し、IL-36R欠損は免疫異常や腎機能悪化に影響しなかった。一方、腎病理解析では、WT群に比べて雌雄KO群の糸球体増殖性病変指標が低い傾向にあり、雌では糸球体内核数が、雄ではメサンギウム面積が有意に低値を示した。またKO群では、雌雄共に腎線維化や尿細管拡張が軽減する傾向にあった。IL-36関連分子の遺伝子発現量に両群間で有意差はなく、IL-36群のうち主な腎病態関連分子IL-36αおよびIL-38の蛋白定量値も、両群ほぼ同値を示した。 以上より、IL-36R欠損は自己免疫性腎炎モデルの糸球体および尿細管間質の病態進行を抑制した。一方、その病態抑制は軽度であったため、IL-36群あるいは他の病態関連分子を介したIL-36R非依存性経路が複合的に本症の病態形成に寄与すると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、IL-36Rを欠損した自己免疫性腎炎モデルマウスを作出し、雌雄6ヶ月齢のKO群およびWT群の腎表現型を解析した。IL-36群の欠損によって免疫異常や腎機能、IL-36関連分子群の発現量に変化はなかった一方、腎病理指標では糸球体および尿細管間質の病変の抑制を認めた。本腎炎モデルの病態抑制が軽度だった原因として、IL-36群のうち、主要な腎病態形成因子であるIL-36αが、IL-36Rの欠損の有無に関わらず細胞質および核内に局在することに着目し、現在、その核内発現意義を解析中である。一方、IL-36Rの局在解析について、そのmRNAをin situ hybridizationで明らかにしたが、IL-36Rの蛋白局在の同定を行うため、本分子をFLAG蛋白で標識したマウスを作出・解析している。さらに、骨ミネラル代謝評価のために必要な骨や甲状腺、上皮小体、血清は採材を行った。獣医臨床応用性を検証するため、イヌおよびネコの腎臓内におけるIL-36群関連分子の発現を解析している。解析手技として、透過型電子顕微鏡および凍結切片の作製技術を習得した。 また、前年度に解析した自己免疫性腎炎モデルにおけるIL-36群の発現および局在について、Cell and Tissue Research誌に公表した。 以上より、課題全体において申請時の計画通り進捗していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
IL-36αに着目し、その核内シグナル経路について解析を行う。サイトカインの核内局在は、IL-36群と同一のIL-1ファミリーに属するIL-1αやIL-33で報告されているが、IL-36αの核内シグナルに関する知見は乏しい。そこで、IL-36α発現を誘導したCKDモデルマウスの腎臓から、蛋白質を抽出後、共免疫沈降・質量分析によりIL-36αと結合するパートナー蛋白質の回収および同定を行う。特に、核内に発現する候補分子を選択し、その分子とIL-36αとの核内共局在性を組織学的に検証する。in vitroにおいて、IL-36α発現を誘導した野生型の細胞に、siRNAによる核内パートナー候補分子の発現抑制を行い、変化する下流分子群を網羅的に解析する。 また、自己免疫性腎炎モデルマウスのCKD-MBD病態について、腎病態進行に伴う血中カルシウム濃度の有意な増加が認められた一方、IL-36群の遺伝子発現変化は確認できていない。そこで、採材済みであるIL-36Rを欠損した本腎炎モデルマウスの骨ミネラル代謝異常の病態評価を行う。骨や上皮小体を各種染色法を用いて組織学的に評価し、血中のミネラル代謝関連物質(カルシウム、リン、パラソルモン等)の濃度を生化学的に定量する。 獣医療域への応用性も検証する。これまでに収集したCKD罹患イヌ・ネコの腎臓を用いて、IL-36群とIL-36Rの発現および局在を解析する。CKD指標として、組織障害・炎症をスコア化し、また血中・尿中腎機能数値を測定する。またMBD指標として、血球計数、血液生化学性状、パラソルモンを評価する。これらIL-36群の発現量とCKD-MBDの定量値の相関解析を行う。得られた成果から、IL-36群のCKD-MBD病態における役割とその臨床応用性を考察する。
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